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『シェルブールの雨傘』観劇レポート 2014年09月

(2014年09月06日記載)

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『シェルブールの雨傘』
観劇レポート

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▲写真提供:東宝演劇部

観劇レポート(写真提供:東宝演劇部)

あの名曲が流れたとたん、思わず涙腺がゆるんでしまう方も多いのでは・・・
ミシェル・ルグランのメロディーが、時に楽しく、時に切なく
変化しながらたたみかけるように流れてくる。
ニュートラルな状態でその世界に身をゆだね、揺ら揺らと心を預けて漂えば、
どこか懐かしく、甘酸っぱい想い出や感情が蘇ってくる。

全編歌で綴られた楽曲に込められたメッセージを
全身で浴びるような、大人のミュージカル。
それが『シェルブールの雨傘』。

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主人公は、車の整備士として働くギイ(井上芳雄)と
恋人のジュヌヴィエーヴ(野々すみ花)。
20歳と16歳。まだ若い恋人同士の2人が
結婚を夢見て将来を誓い合うという絶頂期に転機が訪れる。

2人の結婚に反対するジュヌヴィエーヴの母(香寿たつき)の元へ督促状が届き
経営する傘店を維持するため、アクセサリーを売ろうと宝石商の元を訪れる。
そんな母娘に救いの手を差し伸べたのは、宝石商のカサール(鈴木綜馬)。
窮地を救ってくれたお礼にと、一緒に食事をする仲になる。

一方、ギイへの元へもアルジェリア戦争の召集令状が届いた。
いつ戻れるか分からぬ身の上を案じ、胸が張り裂けそうになるジュヌヴィエーヴ。

そんなギイを案じていたのは、ジュヌヴィエーヴだけではなかった。
伯母のエリーズ(出雲綾)と、看護師のマドレーヌ(大和田美帆)。
ギイは心を残しつつも、戦地へと赴くのであった。

数ヵ月後、ジュヌヴィエーヴはギイの子供を身ごもっていることを知る。

この後、どのように生きていくのか・・・。
というストーリー。

この物語は、「起承転結」がハッキリと描かれてるような気がする。

しかし、ジュヌヴィエーヴの選んだ道は、本当にそれで良かったのかどうか・・・
これは誰にも分からない。

そういうところも、この作品のタイトル、『シェルブールの雨傘』に
込められているような気がする。
雨が多いフランスのシェルブール地方の気候のように、
霧でぼんやりとしているその先に何が見えるのか・・・。
そんな作品だ。

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主人公ギイを4年半ぶりに演じる井上芳雄。
「再び演じたいと思っていた役だ」と語っている通り、作品に真摯に向き合い、
この作品の中でしか出せないような独特の世界観を作り出していた。
ギイが将来を切り開く時、必ず女性が影響しているというところもおもしろい。
特に戦争から帰り、身体の傷以上に心に大きな傷を負った姿を見ていると
思わず手を差し伸べたくなるような・・・
そんな姿にキュンと来る人が多いのもうなずける。

今回初めてジュヌヴィエーヴを演じる野々すみ花。
宝塚時代からしっとりとした娘役だったが、
今回もその持ち味を発揮していた。
どこか儚く壊れそうな彼女が、実は内面に強いものを秘めていたというのは
共感できる。ジュヌヴィエーヴ自身の成長を描いた物語でもあるが、
実は本能的に自分の歩く道を見付けているタイプなのかもしれない。
観ている方とすればなぜその選択を・・・という感じもするが、
ある意味決断した時の思い切りの良さは、女性らしい一面なのかも。

マドレーヌ役の大和田美帆。
いつもは元気で活発な女性を演じることが多い大和田だが、今回は控えめな女性。
一歩引いたところからギイの身を案じる様子は、“大和撫子魂”にも通じる。
ギイやギイの伯母・エリーズ以外との関わりはあまり描かれていないが、
おそらくどんな人にも大きなおだやかな心で接する素敵な女性。
マドレーヌ自身は気付いていないかもしれないが、両親を亡くし辛い思いを
しているからこそにじみ出るような、寂しさや温かさ。
そんな人物背景をも感じさせる演技だった。

エリーズ役の出雲 綾。
自分の身が動けなくなったらどのように生きていくのか。
そんな誰にでも起りうる問題をも浮き彫りにしている役どころ。
出雲の歌声は大きな魅力のひとつだが、
前回よりさらに声のトーンを落として演じていたように思う。
人生の酸いも甘いも知るからこそ穏やかにギイを見守る。
どこかでマドレーヌとも雰囲気が重なる。

カサール役の鈴木綜馬。
窮地に立たされている母と娘を手助けする、その姿からは、
「誠実」という言葉が浮かんでくるし、それは鈴木綜馬の魅力とも重なる。
まっすぐに見つめるその姿。
一歩間違うと唐突に見える役どころだが、
包み込むような“大人の愛情”を感じた。

エムリー夫人役の香寿たつき。
前回上演時、この役の演技に対して第35回(2009年度)菊田一夫演劇賞を受賞している。
この作品の中でエムリー夫人は、実は誰よりも現実的な人だと思う。
大事な宝石を初対面のカサールに預けるところは現実的ではないが、
娘のジュヌヴィエーヴ同様、本能的に自分の歩く道を見付けている
タイプなのかもしれない。母親として娘に幸せになってもらいたい気持ちは、
ごくありふれた一般家庭の母親と同じで等身大な姿。
そんなことを感じるエムリー夫人だった。


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演出・振付を手掛ける謝珠栄ならではのダンスシーンも印象的。
ただ、ずっと音楽がなり続けているので、少々せわしないと思うところも。

1枚の絵画を長い間眺めていたかのような余韻が残る作品だ。

 

『シェルブールの雨傘』

 

脚本・作詞:ジャック・ドゥミ

音楽:ミシェル・ルグラン

演出・振付:謝 珠栄

 

2014年9月2日(火)~21日(日)

会場:シアタークリエ

全国公演あり

 

http://www.tohostage.com/cherburg/

 

 

 
 

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