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Studio Life Next GENERATION『カリフォルニア物語』開幕レポート 2018年07月

(2018年07月25日記載)

『エンタメ ターミナル』では舞台を中心としたエンターテインメント関連情報をWEB記事として発信しています。
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Studio Life Next GENERATION
『カリフォルニア物語』開幕レポート

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ストーリー

青い空、緑の大地、光り輝くカリフォルニア。
だが、カリフォルニアだっていいことばかりじゃない。
父との確執、兄へのコンプレックスなど、
さまざまな人間関係の鬱屈さを振り切ろうと、
高校をドロップアウトしたヒースは故郷カリフォルニアを飛び出し、
冬のニューヨークにやってきた。
相棒で同居人のイーヴ、恋人のスウェナ……。
灰色の空のもと、
大都会の片隅でひとつの青春が始まった……

スタジオライフとは

1985年結成。1987年から、男優が女性役をも演じるという手法をとり、
現在は男優40名、女性演出家・倉田淳1 名のみで構成されている演劇集団。
その耽美な世界観と、演出家 倉田淳の独創的な脚色力と美しく繊細な舞台演出が話題を呼び、
20 代~40 代の女性を中心に圧倒的な支持を得ている。
1996 年2 月の「トーマの心臓」(原作萩尾望都)初舞台化の成功を機に、
萩尾望都作品や「ヴェニスに死す」(原作 トーマス・マン)、「死の泉」(原作 皆川博子)
等の文芸耽美作品を始めとし、人の心の機微を深く追求する作品を精力的に上演している。
劇団創立20 周年を迎えた2005 年には直木賞作家・東野圭吾の「白夜行」を2部構成で
初舞台化し大好評を得た。2006 年には長年の念願だったシェイクスピア作品「夏の夜の夢」を
上演し大成功を収め、以後「ロミオとジュリエット」、オリジナルの楽曲を使ったわかりやすい
シェイクスピア作品を目指した音楽劇「十二夜」や「じゃじゃ馬ならし」を上演。
劇団のレパートリーとなる。またまた、舞台化は難しいと思われていた萩尾望都「マージナル」、
高屋奈月「フルーツバスケット」、手塚治虫「アドルフに告ぐ」などの舞台化。
2011年には「PHANTOM -THE UNTOLD STORY~語られざりし物語~」(原作スーザン・ケイ)で
英国人デザイナーのマット・キンリー氏が美術プランに参加、初の海外公演となった
「夏の夜の夢」「十二夜」2作連続上演(作ウィリアム・シェイクスピア)では、
日本を代表するイラストレーター宇野亜喜良氏がヴィジュアルを担当、
2012年6月の「天守物語」では同氏が舞台美術・衣裳を担当、テーマ曲をBUCK-TICKの
今井寿氏が手がけた。2013年の音楽劇「カリオストロ伯爵夫人」では、「翼をください」
「エメラルドの伝説」などの名曲を生み出した作曲家、村井邦彦氏が音楽を担当。
2015年にはPartⅠ、PartⅡの同時期交互上演は不可能と言われた二部作
「PHANTOM -THE UNTOLD STORY」の交互上演を実現するなど、次々と新たな試みに挑戦し続けている。

『カリフォルニア物語』開幕レポート(文:横川良明)

少年が大人になるとき、いったい何を失い、
そして何を得るのだろうか――『吉祥天女』、『BANANA FISH』、
そして『海街 diary』と数々の名作を生み出してきた漫画家・吉田秋生の
初期の代表作『カリフォルニア物語』が、劇団スタジオライフによって舞台化された。
スタジオライフが同作を舞台化するのは2008年の初演以来、10年ぶり。
「Studio Life Next GENERATION」という名の通り、
次世代を担う若手がメインキャストを務めるなど、
全体としては若者らしい熱と軽やかさが魅力の作品となっている。

物語は、主人公・ヒースが故郷のカリフォルニアを捨てて、
ニューヨークのマンハッタンに辿り着いたところから幕を開ける。
幼い頃に両親が離婚。母の愛を知らず、厳格な父のもと、
優秀な兄と比較されて育ったヒースにとって、故郷のカリフォルニアは、
孤独と反抗の街。誰もが憧れる広大な青空も、肥沃な大地も、
ヒースの記憶の中では暗い灰色に塗り替えられていた。

自由を求めてやってきたニューヨーク。
その道中のテキサスで、ヒースはイーヴという少年と出会う。
ニューヨークで生まれ育ったイーヴは、ヒースとは反対に、
明るいカリフォルニアに楽園を夢見ていた。
カリフォルニアに焦がれるイーヴは、カリフォルニア出身の
ヒースにくっつくようにしてニューヨークへ逆戻り。
ふたりは共同生活を送ることとなる。

この『カリフォルニア物語』は、
屈折した心を抱えたヒースが、イーヴやその他の仲間たちとの出会い、
そしてニューヨークでの暮らしを経て、大人の階段をのぼる成長物語だ。
だが、成長には痛みが伴う。人は自ら傷を負い、血を流し、
涙の苦さを味わうことで、少しずつ大人になっていく。
1978年、つまり今から40年も前に連載を開始した『カリフォルニア物語』が
今なお人の心を打つのは、そこに青春の光と影という普遍性が色濃く描かれているからだ。

10代の多くは、自分の痛みには敏感であるにもかかわらず、
他人の痛みに関しては無自覚だ。自分の何気ない言葉や振る舞いが、
大切な人を深く傷つけているかもしれない。
そんな些細な想像が及ばないのが、10代の無邪気さであり、無神経さだ。
決してそれは責められるべきものではない。
なぜなら、みんな精一杯なだけだから。
主人公のヒースも、そんなアンバランスな10代のひとりだ。

ヒースは、常に愛を乞うていた。
その理由は、愛に飢えた生育環境にある。父に抱いたのは反発心。
兄に覚えたのは劣等感。ヒースは家庭の中で自ら孤独の鎧を装った。
兄嫁のスージーに恋心を寄せたのは、彼女が初めて人間的な
温かさを向けてくれた相手だったから。
新天地のニューヨークでスウェナと享楽的な恋に溺れたのも、
愛されることが彼の充足感を満たす最善の手段だったからだろう。
それは、何もヒースに限ったことではない。
多くのティーンエイジャーが常に寂しさを持て余し、
その空虚感を他者との交歓によって埋めるものだ。

だが、誰かの幸福の影に、誰かの涙や苦悩があるのもまた青春の必然。
劣悪な家庭環境ゆえに一般的な教育を受けることさえできなかった
イーヴは、他者から金品を盗むことと自らの身体を売ることでしか
生計を立てられない。そんな過去との呪縛から解き放ってくれたのが
ヒースだ。ヒースとの出会いを経て、イーヴが過去の清算を遂げる。
まるで兄弟のように仲良く暮らすふたりだが、やがてそれは新たなる
孤独と寂しさの種となった。自分を救ってくれた相手が、
いつしか自分を苦しめる相手となる。叶わぬ恋。言えない想い。
開放的に生きるヒースの傍らで、自らの胸の内に笑顔という名の
蓋をするイーヴがいじらしく切ない。

ヒースとイーヴ。性格こそ異なるが、
ふたりは共に寂しさを持て余した子どもだったのだ。

スタジオライフは、そんなヒースとイーヴの関係を軸に、
欲望渦巻くニューヨークの人間模様を生命感たっぷりに描写した。
特徴的な演出が、70~80 年代アメリカを彷彿とさせるエネルギッシュな
楽曲の数々だ。それだけで当時青春を過ごした世代はもちろん、
若い世代も自らの青春の日々を投影してしまう。

そして、そんな名曲に負けない瑞々しさを放つのが、役者陣だ。
ヒースを演じる仲原裕之は、05年入団。
イーヴの前では兄のような包容力を見せつつも、
自らもまた完成されていない青年期の脆さを内包するヒースの
複雑な心理を巧みに表現した。当初は自分自身のことしか
見えていなかったヒースが、物語が進むにつれて、他者のために行動を起こす。
その誠実さは、やがて暴走を生む引き金となるのだが、
それだけ盲目的になれるのもまた若さの特権。
仲原の豊かな感情表現が、ヒースの人間的な魅力を膨らませた。

対するイーヴを演じるのは、13年入団の千葉健玖
(Wキャスト。Leaf バージョンでは、12年入団の若林健吾が務める)。
不幸な生い立ちにもかかわらず笑顔を忘れないイーヴに、
千葉の持つ透明感がマッチ。その無垢さは、まるで天使のようだ。
折々に見せる苦悩の場面も押しつけがましさがなく、つい肩入れしたくなる。
物語の構造上、イーヴの清新さが作品の印象を決めると言っても過言ではないが、
その大役を若手の千葉が見事になし遂げた。

作品全体の印象としても、デリケートな問題を扱っていながら、
決して重くなりすぎず、コミカルなシーンも挟まれていて、軽やかな仕上がり。
あらすじだけ追うと、決して爽快な結末とは呼べない。にもかかわらず、
カリフォルニアの大地を駆ける風のような澄んだ余韻が残った。
いくつもの喪失を知ったヒースは、ともすれば初めてニューヨークに
訪れたときよりもずっと孤独になったようにも見える。
だが、決してそんなことはない。なぜならもう寂しさを持て余していた子どもではないから。

ヒースは、ずっと愛を乞うてばかりいた。
でも、愛は自分のすぐそばにあった。そのことを知り、彼は大人になった。
捨てたはずの故郷・カリフォルニアは、大人になったヒースにとっては
どんな場所に見えるのだろうか。いつか再びヒースがカリフォルニアに
帰ってきたとき、彼はどんな顔をしているのだろうか。
終演の暗転の中で、そんなことを想像していた。

『カリフォルニア物語』は、
少年から大人へと移ろう一瞬の中で放たれる光と影の物語だ。











 

 

Studio Life Next GENERATION

『カリフォルニア物語』

 

原作:吉田秋生「カリフォルニア物語」(小学館刊)

脚本・演出:倉田 淳

 

期間:2018年7月20日(金)〜8月5日(日)

THE POCKET(東京都中野区中野 3-22-8)

 

http://www.studio-life.com/stage/california2018/

 

 

 
 

情報は書き込んだ時点のものですので、実際の内容と異なる場合があります。
あらかじめご了承下さい。

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