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DRUM TAO新作舞台『百花繚乱 日本ドラム絵巻』
構成・演出の宮本亜門さんを囲んでの合同取材が行われました。
公演について
DRUM TAO新作舞台『百花繚乱 日本ドラム絵巻』
構成・演出: 宮本亜門
『百花繚乱 日本ドラム絵巻』は、世界で650万人を動員し、結成から22年を迎える「DRUM TAO」が、初めて外部から演出家を招いてつくられた新作舞台です。5月10日より佐賀市文化会館を皮切りに全国公演がスタートし、東京公演は天王洲・銀河劇場で7月16日から26日まで計16公演を予定しています。
東京公演に先立ち、7月2日に本作舞台の構成・演出をてがけた宮本亜門さんを囲んでの合同取材が行われ、DRUM TAOとコラボレーションすることになったいきさつや、舞台ができあがるまでのことなどを紹介されました。
また、本作が来年、NYオフブロードウェイでの公演が決定したことについても、お話されました。
会見内容(2015年7月2日/提供記事・写真)
――― DRUM TAOの演出をすることになったいきさつは?
実は海外に行ったとき、ポーランド、シンガポール、エジンバラなどでDRUM TAOの名前を見ていたのですが、日本のカンパニーだと思っていませんでした。その後、舞台を見せていただいて、東京にいて何回も公演が行われているのに知らなかったのを反省しました。エネルギッシュで、ショーとしてとても面白いものでした。ストイックな太鼓集団というよりも、おおらかで楽しい太鼓集団で、一曲一曲のイメージがふくらむようでした。ぜひ(演出を)というお話をその場でいただいたのですが、少し時間をいただいて、過去の作品も見せていただき、彼らの持っているイメージをつなげながらつくっていけたら、と思いました。私が強制するのではなく、TAOのもつ作品に合わせながら1つの作品にしていければと。
僕は若いときから日本のものが好きで、日舞やお茶をやっていて、いつかそういうものを演出したいと思っていたのですが、なぜかミュージカルになってしまい、オペラなど西洋の論法を勉強しながらやってきたのですが、原点回帰をしたいという思いがちょうどあった時期でした。「金閣寺」や「耳無し芳一」など日本文学を取り上げてきたところで、このお話をいただきましたので、よしやろう、と。私の人生でこんなに早く決めて、こんなに早く稽古に入ったのは初めてでした(笑)。ちょうどスケジュールが合ってしまったんです。それで、阿蘇にあるTAOの稽古場に行くところから始めました。
――― 和太鼓の演出をするにあたって意識したポイントは?
和太鼓がずっと好きでしたが、このTAOの魅力を壊したくない、というのがあって、ドラマを入れることがいいのかどうか、ずっと自問自答しました。元々TAOが持っていた太鼓の表現が面白かったんですが、いろいろな太鼓があって、音色は一色ではなく、人間の鼓動だったり、火山のマグマだったり、雷の音、せつなさ、水のしたたりなど、全部太鼓でできるんです。その情緒性を大切にしたいと思いました。
台本を決める前に、まずTAOのメンバーにこれまでのどんな作品が好きかをききました。何人かからあがったのが、東北の震災があった後の作品でした。被災地から来てくださいと言われたときにつくった作品で、人を勇気づけるとか、生きる活力を与えるとか、思いが入っていたので、これがやっぱり必要なんだ、と思いました。もっと元気を出していこう、と人間に活力を与えるものが太鼓にはあるんだ、と思ったんです。実際に、人間はここまで頑張れるんだ、とか、命を削ってやっているやつがいる、というのが必要なのではないか、それを大切にしたいと、最初に思いました。
(この作品に)あえて天変地異という要素を入れたのは、日本がくり返してきた天変地異の時期にいま我々はちょうどいる。我々は自然のおかげで生きていられるし、つらいことがあろうとも、明日に向かっていけるんだ、という活力を出したいというのが、最初のイメージです。
太鼓のエネルギー、いろいろな表現、いまの時代だからこその内容。セリフのないノンバーバルな舞台だから自由に解釈してもらえるように、これまでのTAOとは違う色を出したいというのが意識したところです。
――― TAOは太鼓を叩くという動き、アクロバティックな動きなどはこれまでやってきたと思いますが、物語を見せる動きというのはどのようにつくっていったのでしょうか?
太鼓を叩いているときの意味合いをプラスしていきました。たとえば、自然の怒りみたいなものを表現するときは、自分たちがマグマになったように怒りを持って叩いてごらん、とか、親が死んだ後の少年の思いを思いながら叩いてみたら、とか、感情を入れていったんです。これまで(の作品で)はそういうことは一切なくて、譜面があって、そのリズムの中で強弱をつけたりして叩いていた。今回は、具体的な感情を入れ込むということを足がかりにしていきました。それがリンクしたときに、本人たちが思った以上に入り込んでいきました。
――― TAOの揃った動きも亜門さんの演出ですか?
かれらは自分たちで動きをつけるんです。動きやリズムは基本的に彼らがつくり、それを座長がいいかどうか判断してきたのがこれまででしたので、そこは踏襲しています。僕は、彼らの持っているものをパズルのように合わせつつ、位置のこととか、新しく入れ込んでいきました。
TAOは、同じ曲でも毎回違う形で提示したいという思いがあるので、変える提案をしながらつくっていきました。
今回はすべてを演出するのではなく、TAOがやってきたものをリスペクトしながらそれをうまくパズルのように合わせていき、そこに新たに感情を入れていく、気持ちを入れていく、というのが僕の仕事でした。
――― TAOは俳優ではありませんが、物語を演じるにあたって、彼らならではの特性を感じたことはありましたか?
俳優ではないけれど、感受性はすごく強く、訓練されているものがありました。最初は照れがすごくあったのですが、だんだんおおらかになってきたので、自分たちの経験から細かく伝えていくように、俳優と同じ指導をしていきました。徐々にできるようになっていったのですが、向うも演出家が初めてなので、自分たちのなにかを壊されたらどうしよう、とか恐怖感があったかもしれませんよね。
一緒に合宿をしたんですが、ほとんどのメンバーは携帯電話やネットを使えないんです。3週間に1日、外出して買い物などができる日があるくらいだし。現代ではありえないような状況に追い込まれないとこれだけの入り方はできないでしょうね。他の世界ではなかなか味わえない、無になれる世界なので、彼らは自分の意志で、ストイックにその世界に入れることを喜んでいます。僕は初体験で、毎日驚いてました(笑)。
――― 普段の現場とまったく違ったと思いますが、一番気をつかったのは信頼関係ですか?
そうです。みなさん笑顔で迎えてくださったんですが、心の奥の「さあ、どうなるんだろう?」という不安ですよね。初めての演出家で、受け入れようという思いはすごくあるんですが。
――― ストーリー性が今回演出で入られていちばんのポイントかと思いますが、天変地異などの要素も入るとのことで、(TAOの拠点の)阿蘇を意識していますか?
はい。合宿してよかったんですが、あの場所を訪ねたときに、その景色を見て、こういう壮大な世界があるんだ、と。想像を絶するエネルギーがあるところで、その中で朝から深夜までなんの遠慮もなく太鼓を叩けるんです。その下には巨大なマグマがあって、エネルギーが通っていて、人間がその上で生きている、というのはまぎれもない事実だと思ったので、その自然を無視するのではなく、リンクしていたほうが、太鼓の本質、太鼓というのは根源なので、その根源のエネルギーと結びつくのではないかと思いました。
――― 物語に諍い(いさかい)を入れたのは?
天変地異があると、それを怖がる人と、それを受け入れて次に進もうという人がいて、いろいろな個性があぶり出されて来るのが人類の歴史にあります。ヨーロッパで魔女狩りが起こったり、気候変動が始まると、人類にはいろんなことが起きてしまう。それは怖がるからで、それをいろいろなもののせいにする人もいれば、それを乗り越えていこうとする人もいる。いまは日本だけでなく世界でそういう時期にきていると感じるので、さあ自分たちはこの状況でなにに向かおうとしているのか、ということに僕は興味をもっています。今回は、あえてこのようなくり返される天変地異で、攻撃してくる人もいるなかで、あなたはどうしますか、ということを入れてみました。
――― コシノジュンコさんの衣装が素晴らしいですが、時代設定を江戸にしたのは、2020年の東京オリンピックを意識してのことでしょうか?
具体的に江戸というのではなく、日本のどこにでもあてはまるようにイメージした設定で、現代のある田舎かもしれないし、少し前の日本かもしれません。コシノさんが「百花繚乱」を決めてスタートしたこともありますが、最後に向かっての、衣装の華やかさ、カラフル感があって、いろいろな色が世界にあふれてつながっていく、というのがよかったですね。
いままでのTAOはどちらかというと白黒の世界で、それはストイックですごく美しいし、日本の太鼓は聖なる物の美しさがあって、僕も大好きな世界なんですが、そこにプラスしてTAOのカラフルな表現で日本の多様性を入れこんで、このカラフルな世界にもっていきました。
――― 物語の主人公は?
ストーリーは、小さな村があって、噴火が起こり、少年が両親を亡くしてしまった。その子が村人たちに助けられながら成長していくんですが、天変地異で混乱した隣村が襲ってくる。この村は平和に暮らしていたんですが、対抗して戦おうとする。そのみんなが争いに向かっていく状況に少年はとまどうんです。そこに天女が降りて来て、少年になにが大切かを説く。結局は争いではない、ということになるのですが、そのときに楽器を持つのか、武器をもつのか、にしています。長い棒は武器で、短いバチは太鼓を叩くときのものという設定にしていて、棒の長さで象徴的に舞台にあらわれるようになっています。結果的に人が結ばれていくのは音楽であり、楽器である、と。
――― (抜粋映像中の)花魁道中の花魁が天女ということでしょうか?
天女という聖なる物と花魁という俗なる物の対極も認めるということですね。コシノさんのアイデアで花魁がでてきて、どうなるかと思いましたが、花魁の中に最も聖なるものがある、という。
太鼓のカンパニーには女性もいらっしゃいますが、男側に立って同じように頑張るのではない、違う女性の魅力を出す、ということをしたかったので、男の魅力、女の魅力、両方を見せるということで、あのようなシーンがあってよかったかなと思います。
――― 最後は客席にも降りて行くんですね。
演劇というと額縁の中というような感じですが、舞台で完結するのではなくて、この舞台はセリフのないノンバーバルなものですし、劇場で生で見ると太鼓の音で皮膚が震えるんです。
劇中で使っている太鼓で「月鼓(げっこ)」というのがあるんです。胴がなくて、皮だけの太鼓です。その月鼓を月の象徴としているんですが、それを打つと、音響の機材も僕たちも震えるんです。体感なんです。生(なま)体感がすごいので、ある意味演劇を越えるというか、額縁を越えるもの。これが太鼓の魅力だと思います。体感という意味では太鼓は大変表現の面白いものだと思います。演劇というよりは、生体感として、共に味わってもらえればいいと思います。
月鼓というのは昔からある太鼓だそうですが、僕が、月を叩く、ということをやってみたいと言ったら、この「月鼓」がある、と。奉納太鼓で、3枚まとめて買うことになりました。どういう音がでるのかとみんなでドキドキしながら叩いたら、今まできいたことがないような響きで、とても神秘的で。みなさんが一番振動する響きです(笑)。
――― さまざまな太鼓がありますが、特にこの響きがたまらない、というものはありますか?
この月鼓は面白いですよね。あとは、争いのときに2つのチームに分かれて打つ太鼓、あの激しい叩き方と、突き刺すようなリズムはカッコいいと思いますね。いろいろな太鼓があるので、日本の場面なんだけどラテンが入ったり、いろいろなリズムを隠し味のように提案しているので、太鼓の音でいろいろなカラフルさがあるのが、とても好きですね。
――― 来年はオフブロードウェイ公演が決まっているんですね?
三谷幸喜さんがやったのと同じ劇場ですね。今年の12月くらいにもう1回稽古をしようと思っていて、つくり込んでニューヨークにもっていきたいと思っています。
昨年NYに行ったときにアジアの太鼓のカンパニーが2つやっていました。日本はつくっているんだけど、なかなかそれをうまく出せないんですが、かれらはどんどん出していく。こちらから勝負をかけていかないと、このままじゃもったいないね、と言っていたので、オフが決まってよかったなと思います。今回は劇団がつくるもので物語のある太鼓の舞台というのは世界初だと思いますので、どのように評価されるのかが楽しみですよね。オフはオンよりは少し気が楽な部分がありますし、こういうものがある、というのを見せる初体験になることがすごく楽しみです。
――― コシノジュンコさんと、舞台美術の松井るみさんと再びタッグを組まれたということで、どうでしたでしょうか?
まず懐かしく再会を祝いました(笑)。お互い変わってなくて。この3人がやろうとしているのは、日本の魅力を伝えたい、ということで、日本の伝統というかたちだけではない、今まで見たことのない面白いものを入れよう、というのがあったんです。るみさんといえば、金屏風ということで、屏風の中で物語が展開するようにしたんです。金屏風に映像を当てていくことの難しさですごく時間がかかったんですが(笑)。日本の魅力を表現するために、あるところは細やかに、あるところは大胆に強弱をつけていくことが必要でした。コシノさんはご想像のとおり、いつもお元気なかたで、「百花繚乱よ!」といちばん最初にできてきたのが最後のところの花魁などの衣装で、「これをどうするの?!」というところから僕はスタートしました。そこから物語を絡めながらつくっていくのも、コシノさんの勢いがあっての楽しさでした。
コシノさんは、TAOといっしょにやって4年目ですので、TAOとの関係では先輩なんですが、ビッグファンの1人でもある故に、この新作をみたときに「もう少しこうしたら」とか悩まれたらどうしようと思ったのですが、「違うかたちを引き出してくれた」とすごく喜んでくださって、ほっとしました。
東京公演
『百花繚乱 日本ドラム絵巻』
2015年 7月16日(木)~ 7月26日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
主催:読売新聞社/DRUM TAO 2015 TOKYO実行委員会
お問い合わせ:東京音協:03-5774-3030(平日10:00~17:30)
NY公演
2016年2月11日(木)~2月14日(日)
会場:Skirball Center for the Performing Arts
http://www.drum-tao.com/
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