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ミュージカル『いつか~one fine day』稽古場レポート 2019年04月

(2019年04月08日記載)

『エンタメ ターミナル』では舞台を中心としたエンターテインメント関連情報をWEB記事として発信しています。
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ミュージカル『いつか~one fine day』稽古場レポート

イントロダクション

コンスタントに人間ドラマを描き続ける韓国の映画監督イ・ユンギの2017年最新作を原作に、
ストレート・プレイ、ミュージカルのフィールドで説得力ある作品提供をし続ける
板垣恭一(脚本・作詞・演出)と映像から舞台まで活躍の幅を拡げている
新鋭・桑原まこ(作曲・音楽監督)のコンビでミュージカル化!

あらすじ

保険調査員のテル(藤岡正明)は後輩・タマキ(内海啓貴)の担当だった仕事を
引き継ぐよう新任の上司・クサナギ(小林タカ鹿)から命じられる。
それは交通事故で植物状態の女性・エミ(皆本麻帆)の事故の原因を調べるというもの。
しかし、エミの代理人・マドカ(佃井皆美)と友人・トモヒコ(荒田至法)は調査に非協力的で敵対。
仕事が進まないなか、病死した妻・マキ(入来茉里)のことをまだ整理できずにいる
テルに声をかけてきたのは、意識がないはずのエミだった。
俄かには信じがたいと思いながらも自分にしか見えないエミと交流を重ねるうちに、
事故の陰に幼い頃にエミを捨てた消息不明の母親・サオリ(和田清香)の存在が浮かび上がってくる。

ミュージカル『いつか~one fine day』稽古場レポート
(2019年4月2日 取材・文:栗原晶子、写真提供:conSept )


4月11日から21日までシアタートラムで上演されるオリジナルミュージカル『いつか~one fine day』。
conSeptがプロデュースするミュージカル・ドラマ第2弾、その稽古場を取材しました。

稽古開始前。役者たちは各々、ストレッチをしたり、おしゃべりをしたり、
縄跳びをしたりとリラックスした時間を過ごしている。
稽古がスタートして、およそ3週間が経過しているこのカンパニーの雰囲気は、自由でやさしい。
この日の稽古は冒頭のシーンからスタート。前日までの通し稽古を踏まえて、
より細かい点を確認しながら丁寧に進めていくことが告げられた。

まずはこれを聴いて欲しい。





この曲「♪うつしおみ=現人」は、物語の冒頭、1曲目に歌われる曲だ。
ここからドラマが始まる。8人の登場人物たちが動き出し、それぞれのポジションへ。
観客はきっとここで気になる人物を各々見つけるだろう。そしてその人を目で追うに違いない。
演出家の板垣恭一さんが、体をのけぞらせて全体を見ていた。
どこの誰に目がいっても、誰かにフォーカスしてもいいバランスを俯瞰しているのだろう。
振付の下司尚実さんからは、曲に合わせた振りについて、細かく指示が入る。
「吸引力のある感じで」役者たちはそれをスッと自分の中に落としこんで、もう一度トライする。
この繊細なやりとりが繰り返されていく。



保険調査員のテル(藤岡正明)が、調査相手のエミ(皆本麻帆)のいる病室を訪ねるシーン。
植物状態でベッドに横たわるエミに代わり、友人のトモヒコ(荒田至法)とエミの代理人・マドカ(佃井皆美)が
初めてテルと顔を合わせる場面のテクニカルな確認。
途中、板垣さんがこんな風に説明した。
「僕らが乗り遅れないために、台詞じゃないところで二人(トモヒコとマドカ)の状況をわからせたい」。
僕らというのは、つまり観客のことだ。板垣さんは、演出のみならず、この作品の脚本と作詞も手掛けているわけだが、
その僕らという表現がいい。確かに観客は、特に物語が始まったばかりのシーンでは、登場人物の関係を懸命に探ろうとするものだ。
「彼女はどうしてイライラしているのかな」「彼はどういうスタンスで話しているんだろう」そうした小さな疑問符が、
台詞のトーン、顔の向き、立ち位置を微調整することで、解消されていく。

ソロ曲で浮かび上がる役者の個性にも注目したい。
テルの上司・クサナギ(小林タカ鹿)は、ある種のミッションを抱えて、エミの案件をテルに託す。
ノリのいい曲調の「♪長いものには巻かれろ」では大人の男の狡猾さも見せる。
演じる小林タカ鹿さんは、この曲の振りを合間に一人でずっと確認していた。
振りの流れをスムーズにしておくことで、振付のチェックタイムには手の角度、テルに詰め寄る歩幅など、
細かい点を試しながら仕上げていける。



この曲はクサナギの部下、テルの後輩・タマキ(内海啓貴)も続いて歌う。
上司とは対照的なイマドキ若手社員のタマキの思い切りのいい歌と振りも面白い。
現実にいそうなキャラクターで、でも本当にいたらちょっとイラッとくるような若者。
演出家からは、その引っ掛かるポジションを託されるような指示が出された。



「……そういうこと。それがわかってくれていればいいから」こうした声かけが演出家から何度も出ていたのも印象的だった。
具体的な指示をした後での言葉だ。それは、役者自身が考えることをやめずに、
役を深めていくための魔法の言葉なのではないかと思う。
台詞に込めた意味、そのシーンを作った理由、それを理解した上で、人として生きるのは役者自身。
だから彼らは探求することをやめない。それは稽古期間中のみならず、公演が終わるまで続くのだろう。

テルとテルの亡くなった妻・マキ(入来茉里)とのシーンを見てもそれは顕著だった。
稽古を重ねる上で固まりつつあるマキという人物のイメージ。
そのために「こうしなくちゃ!」とテンションを気にする入来さんに、藤岡さんが仕掛けてみる。
予想外の反応で、心が動くこと、距離感を変えることを誘引しているようだった。
それは、相手の気を引くためにいろいろな味のアメをポケットに入れて、同じものを出さないようにしてみせる、
みたいなちょっと不器用な優しさにも見えて微笑ましい。
「二人なりの夫婦像をまだまだ模索します!」入来さんはそう言って、次のシーンに気持ちを切り替えた。



エミを演じる皆本さんがベッドから出て動き始めると、物語は大きく展開していく。
天真爛漫でキュートな皆本さんの本領発揮だ。そして「この作品はやっぱり、だからこそミュージカルなんだよね!」
と観客の心の温度がさらに上がっていくのもこの辺りだろう。
稽古場で感じた自由でやさしい雰囲気が生きて、テルとエミの周りを役者たちがコミカルかつ軽やかに歌い踊る。
榎本サオリを演じる和田清香さんは物語の後半、シリアスな演技も要求されるが、このシーンの振り確認では、
皆を引っ張るムードメーカー的存在だった。



エミが歌う「♪光の世界」は、耳を澄まして聴きたい曲。そして、彼女が歌う横で、藤岡さん演じるテルのドラマも続いている。
「テルが背負っているものの重さは決して軽くない。しかし、誰もがこの日常で何かしらを背負って生きている。
道でたまたま前を歩いている人が悲しい別れを経験したばかりかもしれないし、同じ電車に乗り合わせた人が
病気を患っているかもしれない。テルは特別な人間じゃないと思う」と先のインタビューで答えていた藤岡さんは、
テルを演じながら、テルの一番の理解者でありたいと願っているように見えた。

回想シーンや時空すら超えた!?リアルとアンリアルが舞台上に同居する『いつか~one fine day』。
映像では簡単に処理できることも舞台ではできない。
だからこそ、観客には想像力が必要で、その想像力を掻き立てるように役者は舞台上で生き生きと生きる。




普段、舞台を観る前にはネタバレを避けて、情報を入れないタイプの人も、
カンパニーの自由でやさしい雰囲気が伝わるこの曲のPVを見て欲しい。
そして、舞台で彼らの生の声を聞いた時に、この曲はさらなる感情を呼び起こしてくれるだろう。
シアタートラムでこの物語がくれるものを余すところなく受け取りたい。

 

 

『いつか~one fine day』

 

会期:2019年4月11日(木)~21日(日)

会場:シアタートラム(三軒茶屋駅)

原作:映画『One Day』

脚本・作詞・演出:板垣恭一

作曲・音楽監督:桑原まこ

 

公式サイト

 

 

 
 

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