情報紙から飛び出した 演劇系エンタメ サイト
Copyright Since1999 情報紙ターミナル
Copyright Since2010 株式会社ERIZUN

六月花形新派公演『夜の蝶』 河合雪之丞さん、篠井英介さんインタビュー 2019年06月

(2019年06月05日記載)

『エンタメ ターミナル』では舞台を中心としたエンターテインメント関連情報をWEB記事として発信しています。
掲載内容は、掲載日付のものとなりますので、最新情報は各自ご確認ください。

※ 記事・写真等の無断使用・無断転載は禁止しています。なお、リンクはフリーです。

 

六月花形新派公演『夜の蝶』
河合雪之丞さん、篠井英介さんインタビュー


(左から)河合雪之丞さん、篠井英介さん

公演について(リリースより)

原作「夜の蝶」は、第一回直木賞を受賞し、これまでに数々の名作を生み出してきた、
昭和を代表する小説家・劇作家の川口松太郎が、昭和30年代、
銀座で人気を二分していた実在のクラブのマダム2人をモデルに描いた作品です。
昭和32年に単行本として発表され、その年の7月に映画「夜の蝶」が封切られました。
さらに、同年10月に新梅演舞場で舞台化、花柳章太郎・初代水谷八重子より初演され、
直後の12月には再演されるという、当時大ブームとなった作品です。
当時の劇団新派の新しい“花柳界もの”として定着した『夜の蝶』。
新派文芸部の成瀬芳一が構想も新たに脚色を加え、東西の夜の女の美しい戦いを、
新派の女方・河合雪之丞に対し、現代演劇の女方篠井英介という二人の女方の対決になぞられ、
華やかな世界の裏にある意地の張り合いを描き出します。

あらすじ

銀座随一の高級クラブ“リスボン”―“リスボン”のマダムである葉子(河合雪之丞)は近頃、機嫌が悪い。
というのも、京都で舞妓あがりのお菊(篠井英介)がここ銀座にバーを構えるというのである。
葉子はお菊の銀座進出は勿論のこと京都の雰囲気を売りに趣向を凝らした店の設えと噂に聞いて、気になって仕方がなかった。
一方、高級クラブ“お菊”は、大物政治家・白沢一郎(喜多村緑郎)の後押しで、葉子はじめ葉子の妹分のお景(瀬戸摩純)や、
銀座のマダム達の羨望と嫉妬を尻目に華々しく開店。京都風にした新戦術は大きな評判を呼び、
お菊は妹分のお春(山村紅葉)と手を取り合って喜ぶ。
銀座一の“リスボン”と話題沸騰となった“お菊”の対立。銀座の夜の世界を舞台に、
二人のマダムが、色と欲の為に女の戦いを繰り広げる――

スタッフ/キャスト

スタッフ
原作:川口松太郎
脚色・演出:成瀬芳一

キャスト
白沢一郎:喜多村緑郎
葉子:河合雪之丞
お景:瀬戸摩純
お春:山村紅葉
お菊:篠井英介

三越劇場 六月花形新派公演『夜の蝶』アフタートークのお知らせ


公演終了後、
10日 喜多村緑郎、河合雪之丞、篠井英介
18日 喜多村緑郎、河合雪之丞、瀬戸摩純、山村紅葉のアフタートークがございます。

三越劇場 六月花形新派公演『夜の蝶』「出演者によるお見送りが決定!」
20日、午後の部終演後、出演者によるお見送りがございます。
※写真撮影はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

河合雪之丞さん、篠井英介さんインタビュー
(2019年5月29日 取材・撮影・文:住川禾乙里)


―――最初に公演に向けての意気込みをお聞かせください。

◆河合雪之丞
夜の銀座を舞台にした作品で、川口松太郎先生の傑作の一つです。書かれてすぐ映画化されて、その後舞台化されました。
舞台のものが映画になることは多いのですが、映画から舞台になったという、ちょっと異色な作品です。
昭和30年代の銀座をテーマにした作品ですが、過去には花柳章太郎先生と先代の水谷八重子先生、
そして今の水谷八重子さんと坂東玉三郎さんが演じられています。これまで女方と女優という形だったのですが、
今回は篠井英介さんに参加していただいて、初めて女方同士で『夜の蝶』をやります。
せっかく女方同士でやるのだから、その女同士のバトルをしっかりとご覧いただきたいということで、
脚色・演出の成瀬芳一先生にもいろいろとお願いして、今までとは少しニュアンスの違ったものに
仕上げていきたいと思っているところです。意気込みとしては、初の女方同士で、この『夜の蝶』どう見せていけるか。
お客様にどのように楽しんでいただけるかということを日々試行錯誤しています。
そういう意味でも、一味違った『夜の蝶』になると思います。

◆篠井英介
女方二人が女の戦いをやるというところがミソです。100年以上の歴史のある新派ですが、
若い頃は「あぁ、新派の芝居っていいな」と思っていました。明治、大正の時代に生きていたわけじゃないのに、
お芝居を観るとどこか懐かしいような、歌舞伎ともリアリズムの普通の現代劇とも違う。
日本の良い郷愁を誘い、風情のあるお芝居を作り続けてきた新派に憧れを持って観ていました。
僕が観始めた頃は、女方さんは二代目英太郎さんぐらいしかいらっしゃらなくて。
写真を見てもともとは女方さんがいっぱいいらしたんだな〜と思ったり。
NHKで花柳章太郎さんの舞台中継をやっていたので…。

◆河合雪之丞
当時、スタジオ録りが多かったからね。

◆篠井英介
女方の世界ということもあって憧れていたのですが、今回ついに「あぁ呼ばれた〜」と思って。
歴史と格式のある劇団に飛び込むというのはなかなか勇気のいることなので、務まるかなと心配でしたし、
やっぱりちょっと怖かったですよ。でも雪之丞さんは私よりお若いし、こちらの劇団にも歌舞伎から
飛び込まれている方。ずっと舞台も拝見していましたし、少し甘えた気持ちもありますが、
雪之丞さんと喜多村緑郎さんがいてくださるのなら参加してもいいと思いました。
昭和30年代の高度成長期のお話。日本では新幹線ができて、東京オリンピックがあって、
テレビや洗濯機もできるという良い時代。ちょうど僕が生まれ育った時代だったので、
そういった活気のある日本の夜の銀座は、きっと凄かったと思うんですよね。
お客様も、政財界も含めいろいろな人たちが入り乱れていた時代で、ゴージャスだけど新派らしい優しさとか情がある。
だから、女の戦いと言っても殴り合いをするのではなく、口先は優しく言っているけど、独特の皮肉や嫌味を
言い合うことで、女性同士の火花が見えることが面白い。ワクワクもするけれど、根底には情愛みたいなものが
忘れられないでしっかりとある。その兼ね合いがとても面白いなぁと思います。映画では主役の二人は
最後に死んでしまうのですが、新派では素敵なエンディングを迎えるので、ほっこりした気持ちで
お帰りいただけるような結末になっています。

―――初共演ということですが、お互いの印象はいかがですか?

◆河合雪之丞
篠井さんは見た目そのままの穏やかな性格の方なので、稽古場も穏やかに進んでおります。
舞台上は穏やかじゃないんですけどね(笑)。

◆篠井英介
粋で洒落ていて格好良いんです。雪之丞さんの役の葉子は、新派の伝統を引き継いでいて、
花柳界の張りと意気地の小股の切れ上がった良い女という血筋をちゃんと引いた役なので、
これぞ新派の女方の演じるべきお役だと思います。自分が出てないところで雪之丞さんに見惚れています。
扮装してお出になったらさぞや素敵だろうなぁと思って。

―――雪之丞さんには篠井さんの女方としての魅力を語っていただきたいのと、
篠井さんには会見で「憧れの新派」とおっしゃっていましたが、
実際に皆さんの中でお稽古されてみての感想を聞かせてください。


◆河合雪之丞
篠井さんが花組芝居で女方をやっていらしたのも観ています。このお話が決まる以前から、
篠井さんは新派に向いていらっしゃる女方さんなんじゃないかなって思っていました。
日本舞踊の基礎もあるし、花組芝居で歌舞伎や新派のような時代物や現代物の要素も取り入れた
お芝居をなさっていたので。今回お稽古させていただいて、やっぱり私の目に狂いはなかったと
思っているところです。

◆篠井英介
そういう思いで見ていてくださったのは、とてもありがたいことですね。アルバイトを辞めてパスポートの
職業欄に俳優と書けるようになってまだ30年ぐらいなんですよ。演劇でもなるべく女優さんに混じって
いろいろなお芝居をする中で女方をさせてもらって、シェイクスピアからオフ・ブロードウェイの現代物まで
やってきたので。そんな中で、雪之丞さんが「新派に向いていると思う」と思ってくださっていたとしたら
すごく嬉しいことです。おっしゃってくださったように、どんな役を演じようがドレスを着ていようがベースは
やっぱり日本の古典なんですよ。なぜなら、日本人が日本語で日本のお客様に演劇を見せるということは、
やっぱりDNAは日本人なんですよね。だから、その人たちが「あら、素敵ね」「あの人はデンマーク王妃なのね」
とかって思ってもらえるように動いたり喋ったりするには、体に何かそういう要素があった方がいいっていう
思いでやってきたので。もしも、雪之丞さんがそういう風にもご覧になってくださっていたとしたら、
本当に幸せだし、嬉しい理解者でいてくださったんだなと思いますね。

―――お稽古場の雰囲気をお聞きしたいのですが、
篠井さんは初めて新派のお稽古場の雰囲気を体感されると思うんですけれどもいかがでしょうか?


◆河合雪之丞
お稽古場の雰囲気はとても良いです、個々の意見はありますし、きちんと意見は意見として伝える。
若い子たちには指導もしています。その中で演出家や作曲家の先生とのコミュニケーションをしっかりとりながら、
全員が一丸となってこの『夜の蝶』を良い作品にしたいという雰囲気が稽古場の中にありますね。
皆が仲良くベラベラ喋っているのが良い雰囲気の稽古場だとは限らず、ある種の緊張感の中できちんと
お稽古が進んでいくというというのが良い稽古場だと思います。自分の意見が言えない人がいないような稽古場が
一番理想だと思うので、お稽古場らしいお稽古ですね。誰かと誰かがバチバチやっているわけでもなく…。

―――舞台上では敵対するお二人ですが、会話はされているのですか?

◆河合雪之丞
(篠井さんに向かって)席が隣なのでね。

◆篠井英介
そう。僕がのんき者でボヤッとしていることが多いのですが、座長である雪之丞さんがお芝居を含めてリードしてくださるので、
わからないことがあったら、すぐにお聞きして、とても居心地が良いですね。甘えた感じで申し訳ないのですが(笑)。

◆河合雪之丞
いつもそうやって稽古場を引っ張ってくれるのは、喜多村さんの役目なのですが、一昨日まで大阪の舞台に出ていたので、
私がやらざるを得なかったんですよ、今回の稽古場は(笑)。

◆篠井英介
たいしたもんですよ。

―――先ほど篠井さんが新派らしさについて、日本の郷愁や人間の情愛を描いていると
お話をされていましたが、雪之丞さんからご覧になって『夜の蝶』に時代性や日本の郷愁は盛り込まれていると思いますか?


◆河合雪之丞
時代が変わっても日本人は郷愁というものを持ち続けていると思います。
今回のお芝居でも、人として、女性としての郷愁や思いが随所に散りばめられているお芝居だと思います。
高度経済成長の時代なので、男性も政治家や建築関係、輸入関係など、色々な人たちが色々な形で、
出世や大金を目論んでいるところに二人の女性が絡んでくる。ただの商売敵というだけではなく、実は因縁があったり。
そういう意味でも、時代性や郷愁を感じますよね。

―――篠井さんから見た葉子さんと、雪之丞さんから見たお菊さんは?

◆篠井英介
雪之丞さんが演じる葉子さんは、銀座のナンバーワンマダムなのに、割とすぐ男に惚れるんですよ。
ちょっとした浮気もすぐにする。見ていて「あぁ可愛いな」って思う瞬間があります。
意地を張って一所懸命に凜として生きているのだけど、ちょっと男には弱い。そこがたまらなく可愛い。
女としての柔らかみというか、良い意味での甘さがすごくある役で素敵なんですよね。

◆河合雪之丞
お菊さんは賢くて節操のある人。一途に愛する男性もいます。ただ東京に土地勘も無い人が急に銀座でお店を出すには、
やっぱり誰かの力を借りなきゃいけない。
そのために誰かを利用しなくてはいけなかったのですが、真面目な人だからこそ、1回の過ちが仇になったりします。
葉子みたいにあちこちに手をつけていると「また葉子のことだから」という話で終わるけど、
真面目なお菊さんだからこそ歯車が一個狂うと崩れてきてしまうところが可哀想なところなんですよね。
私もどんどん色々なもの失っていきますが、最後の最後に二人が共通の大事なものが見つける。

◆篠井英介
最後は、女性ならでは。「だよね〜」と二人の気持ちが通うところとか、男の人にはわからない、女同士の絆、
幸福感のようなものが二人の中に漂う。女の世界だって演じながら思います。

◆河合雪之丞
それと、今回篠井さんの和物の女方で白塗りって久しぶりなんですよね?

◆篠井英介
普段、結ったカツラも乗せませんし、本当に久しぶりです。

◆河合雪之丞
花組芝居ファンの方たちにはたまらないこしらえだと思いますよ。

―――戦後、皆が力強く活動している時代だと思うのですが、
その時代に銀座で女性がお店を構えてやっていく大変さがあったと思うのですが、
その中で役づくりはどのようなところに意識してやっていますか?


◆河合雪之丞
高度経済成長期に“もはや戦後ではない”というキャッチフレーズが出回ったころ。
昔の芸者衆は置屋さんに雇われて、お座敷に呼ばれてお花代もらって。その後は、置屋の女将さんになったり、
旦那に敷かれるということもある。ところが、バーのマダムは自分が経営者でその店に出勤してまわりの
女の子やボーイさんを使って、というオーナーさんなんですよね。今でこそ雇われママというのがありますが、
当時は雇われママというのが無い時代だったと思います。まだまだ男尊女卑の世界観というのは強かったと思うので、
女性が起業するというのは、戦後の大きな変化だったんだと思うんです。
女性が一国一城の主になって、そこでお金を儲ける。当時、この作品が世に出て憧れる人たちも出てきて
『夜の蝶』という言葉が流行ったらしいのですが、先々を見越してちゃんと商売をやっていく
責任感が強かったんだと思います。潰したらもう仕事が無くなってしまうから、どうやって自分の店を堅持していくというか。
今よりももっと責任というものが重かったのかもしれませんね。そういう意味で「リスボン」の葉子としては、
お菊が銀座に乗り込んできたことに、お客様を持って行かれちゃうんじゃないかという恐怖心はあったと思います。
一国一城を守り通さなければいけないという思いが、多分今よりも強かったんじゃないかなと推測します。

◆篠井英介
おっしゃるとおりですね。この作品に出てくる女性たちを、現代の若い女の人が見るとどうなんだろうって思ったときに、
なんかグジュグジュしてるなぁって見えるかもしれないと思います。当時は女の人が仕事をして一国一城の主に
なって切り盛りして、しかも銀座でやっていくというのはすごい大変だったと思うんですね。僕らが上京した時に、
夜10時に電車の中にいる女の人って1割ぐらいだったんです。今は半数かあるいは6割7割は女性なんですよ。
女の人も残業したり女の子同士で飲みに行ったりして、みんな疲れた顔して電車に乗っているんですよ。
女性進出たるもの凄いもんだなと思うんですね。だからこそ、この作品を観て何を苦しんでいるんだろうと思うだろうけど、
当時はこれだけの女の人が仕事してやっていくというのが凄いことだったからこの作品が話題にもなったんだって思うんです。
『夜の蝶』という言葉が一般名詞みたいに使われるようになったのも、女の人がこんなに働きこんなに稼いで人の上に立って
仕事をするって凄く格好良いという憧れが女性の中にあって流行ったんだと思うんです。でも、今それがない。
だから僕たちは、当時の人がこれだけの店を構えて行くのにどれだけの苦労と根性とがあったのかという認識を
腹に持っていられるか。それは、きつい女ということではなく、男性を立てるところは立てただろうし、
また立てなければここまでになれない。当時の女の人ならではのご苦労というのは、正直僕にも雪之丞さんにも
分からないのですが、さぞやあった違いない。足を引っ張る男も女もいただろうし、それをどうくぐり抜けて
「リスボン」というママになったのか。お菊が男の人の力も借りながら京都から銀座に行ってお店を構えるだけに
なったのかっていうのを、僕らがどこかココ(腹)に持ってないと「成り行きでマダムになりました〜」みたいなことでは
いけないと思うので。そんな気持ちで潜り抜けてきた強い女であり、上手く男性を立ててきたんだと思います。
男の人を立ててきたからこそ、うまいこと出来たという風に僕は思えるので、良く言えばたおやかさ、
悪く言えば上手な抜け目のなさかもしれませんが。
そういった知恵みたいなものが、僕たちの演じる女性像の中に上手く表現できると素敵だなと思っています。

 

 

六月花形新派公演

 

日程:2019年6月6日(木)~28日(金)

会場:三越劇場

全席指定:9,000円

 

公式サイト

 

 

 
 

情報は書き込んだ時点のものですので、実際の内容と異なる場合があります。
あらかじめご了承下さい。

[ PR ]