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歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』夜の部 観劇レポート
11月歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』夜の部の演目は
『鬼一法眼三略巻 菊畑』『連獅子』『江戸女草紙 市松小僧の女』が上演されています。
『吉例顔見世大歌舞伎』ならではの配役も多彩ながら、演目の組み合わせも面白い。
時代物、能舞台を模した舞、そして池波正太郎の作品と変化に富んでいる三作品で、
衣裳やお囃子、浄瑠璃や長唄も堪能できる演目でした。
第一部の『鬼一法眼三略巻 菊畑』は、豪華絢爛な時代狂言、浅葱幕が切って落とされると、
そこは華やかな菊が咲き誇る紅葉鮮やかな吉岡鬼一館の庭園。吉岡鬼一法眼(中村芝翫)、
奴智恵内実は吉岡鬼三太(中村梅玉)、笠原湛海(中村鴈治郎)、皆鶴姫(中村魁春)、
奴虎蔵実は源牛若丸(中村梅丸改め莟玉)という豪華な顔ぶれで、源氏再興のため鬼一が
所持する兵法書を手に入れようとするストーリー。その中には、真実を明かせない兄弟同士の
肚の探り合いや、主従の関係ならではの立場にまつわるセリフによる掛け合い、
菊の花に思いを込めて伝えようとする恋心など、さまざまな人間模様が垣間見え、
浄瑠璃・三味線に合わせてのセリフは聞き応え十分。
また、今回の公演は中村梅丸が梅玉の養子となり、中村莟玉(かんぎょく)を名乗るお祝いの舞台。
莟玉は品良く、若々しい牛若丸を演じ、劇中ではお披露目のご挨拶場面もあり、
一幕ながら、絵巻物を観るような盛りだくさんの舞台となりました。
続く『連獅子』は、河竹黙阿弥作。幕が開くと松羽目の舞台に。
唐の霊地清涼山で狂言師右近後に親獅子の精(松本幸四郎)と狂言師左近後に仔獅子の精(市川染五郎)が
文殊菩薩の使いである霊獣、獅子の親子の伝説を踊ります。我が子を千尋の谷に突き落とし、
試練に応え駆け上ってきた仔獅子だけを育てるという故事を舞います。右近と左近が胡蝶に誘われて去っていくと、
舞台には浄土の僧遍念(亀鶴)と法華の僧蓮念(萬太郎)が登場。笑いを誘う狂言を挟んで、
舞台は白毛の親獅子の精と、赤毛の仔獅子の精が花道に。勇壮で息のあった毛振り。
毛を回転させる「巴(ともえ)」や、毛先を舞台に叩きつける「菖蒲叩き」など、
息つく暇もない迫力で、舞台は最高潮に。演じる幸四郎と染五郎も実の親子。
この演目は、昨年、京都・南座の襲名披露でも勤めた二人ですが、親子の情愛と厳しさが伝わる獅子の故事は、
そのまま幸四郎と染五郎の姿とダブり、幸四郎には親としての気迫と覚悟さえ感じられる舞台。
若さ溢れる一途な染五郎も、ますます成長が楽しみな演目でした。
『江戸女草紙 市松小僧の女』は、昭和52年初演以来42年ぶりの上演となった作品。
時代小説の大家、池波正太郎書き下ろし。女だてらに剣術に凝り、振る舞いも男性のような嶋屋の娘お千代(中村時蔵)、
市松小僧の異名をとる又吉に(中村鴈治郎)、南町奉行同心永井与五郎に(中村芝翫)。
ひょんなことからスリの又吉と出会ったお千代。男勝りのお千代が恋に落ち、
夫婦となり甲斐甲斐しく働く女房に変わっていくところも見どころだが、
誓いを破って再びスリを犯した又吉には思いもよらぬ行動に出るところには驚かされます。
見かけは変わっても度胸あるお千代と、気弱な又吉。
江戸の昔には思いがけない男女の取り合わせかもしれませんが、時代が変わっても通じる面白さがあります。
男と女、夫婦の縁は、まさに十組十色。型にはまらない男女の生き方に作者の人間愛が垣間見えます。
同心永井与五郎の芝翫の男気が要になっているところにも注目して欲しい。
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