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歌舞伎座『六月大歌舞伎』夜の部 三谷かぶき『月光露針路日本 風雲児たち』観劇レポート
歌舞伎座では『六月大歌舞伎』夜の部は、
三谷かぶき『月光露針路日本 風雲児たち』を上演中です。
みなもと太郎の人気歴史漫画『風雲児たち』を原作とする
三谷幸喜の作・演出による新作歌舞伎で、
三谷幸喜が歌舞伎を手掛けるのは、平成十八年の『決闘!高田馬場』以来二作目となり、
この度、満を持しての歌舞伎座初上演となります。
鎖国によって外国との交流が厳しく制限されていた江戸時代後期。
大黒屋光太夫と仲間たちが乗る船が伊勢の港を出帆したものの、
激しい嵐に見舞われ大海原を漂流することに…。
物語は、ここから始まるのですが、
尾上松也が教授風の姿で花道から登場し、船の歴史を語り始めます。
なぜ光太夫たちの乗る船が漂流することになってしまったのか…。
大海原の船の上で、松本幸四郎扮する船頭の大黒屋光太夫をはじめ、
船乗りの庄蔵役の市川猿之助や新蔵役の片岡愛之助。
船親司の三五郎役の松本白鸚など17人は、
食べるものも減り、いざこざも増えていく中、
それでも「生きて伊勢の地を踏みたい」そんな思いを持って、
みんなで思案しながら力を合わせていこうと心に決めます。
やっとの思いで辿り着いたのは、日本ではなくロシア領の小さな島。
戸惑いながらも、異国の島で生活をはじめます。
その後も、日本への帰国の許しを得るためにロシア大地の奥へと進んでいきます。
島から半島そして広大な大陸へ、流行り病に倒れる者も出てくる中、
光太夫は「日本へ絶対に帰る」という強い意志を持ち歩みを止めることはありません。
極寒の地を犬ゾリで進むも、ソリを引く犬も次々と倒れていく中、
目の前に目指す町が現れます。
「日本へ帰りたい」という思いで前へ進む者、もう帰れないのではないかと心折れてしまう者。
後半はそれぞれの立場や考え、思いやりの心から起こす行動で涙を誘います。
時折、狂言回しとして物語の流れや歴史の解説が入ったり、笑いやホロリと泣いてしまう場面が
あるところは、初めて歌舞伎を観る人にもわかりやすい構成になっています。
また、大海原を表現する“波幕”や場面を切り替える“振り落し”など、
幕の使い方を多用しているところやセットも見どころ。
また浄瑠璃や三味線、歌舞伎ならではの和楽器を使った音も効果的に使われています。
この物語は、実在した大黒屋光太夫の実話をもとに作られた作品です。
今からわずか200年余り前のことですが、鎖国で外国との交流がほとんど無かった時代、
どんなに大変な苦労があったのか、また不運な運命にも一つの意志を持って立ち向かう
人間の強さが心に迫ります。
そして、三谷幸喜さんの確かな演出と役者たちの気迫がヒシヒシと伝わり、
歌舞伎座の歴史に新たな一ページが加わった舞台でした。
二階、三階でご覧になる方は、双眼鏡があると、より役者の表情や細かい演出が楽しめると思います。
公演は6月25日まで。
(2019年6月4日観劇 取材・文 住川禾乙里)
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