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『明治座 十一月花形歌舞伎』ご出演
市川猿之助さんにインタビューしました
四代目市川猿之助襲名後、明治座に初登場!
昨年、明治座にて16年振りの歌舞伎公演が行われ、大盛況を収めました(その時の初日挨拶の記事はコチラ)。今年は6月・7月と新橋演舞場にて襲名披露興行を行った四代目市川猿之助が、襲名後明治座初登場となります。
昼の部では『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』と『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』。『傾城反魂香』は、絵師としての誇りを持ちながらも生まれながらの吃音で出世できないことに苦しむ又平(右近)と女房おとく(笑也)の姿を描く「土佐将監閑居の場」と、物語の軸となる「近江国高嶋館の場」「館外竹藪の場」を上演。「近江国高嶋館の場」「館外竹藪の場」は、現・猿翁(三代目猿之助)が昭和45年に復活上演を果たした、澤瀉屋ならではの演出です。
『蜘蛛絲梓弦』は、様々な役柄を次から次へと替わってみせる変化舞踊です。四代目猿之助が、童、薬売り、番頭新造、座頭、傾城、蜘蛛の六役を、鮮やかな早替りで踊り分けます。立ち廻りで繰り出された蜘蛛の糸が舞台に広がる、圧巻のクライマックスまで目が離せません。
夜の部は、異国帰りの天竺徳兵衛がガマガエルの妖術を使い日本転覆を企む『天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)』を上演。昭和58年4月に、明治座で現・猿翁(三代目猿之助)によって演じられた作品です。大ガマガエルの登場、早替り、そして宙乗りのつづら抜けなど、大がかりな仕掛けを駆使した一大スペクタクル。今年2月に博多座で上演され好評を博しました。
幼い頃より祖父・猿翁の姿を近くで見続け、澤瀉屋の血と芸を受け継ぐ四代目猿之助と、昭和50年に部屋弟子となり、その精神を受け継ぐ市川右近、そして、兄・猿翁と共に澤瀉屋の芸を継承し、支え続けている市川段四郎が出演。“猿之助スピリット”を受け継ぐ花形歌舞伎が11月明治座で花開きます。
四代目市川段四郎の長男。
55年7月歌舞伎座『義経千本桜』の安徳帝で初お目見え。
58年歌舞伎座『御目見得太功記』の禿(かむろ)たよりで二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。
平成24年6月、四代目市川猿之助を襲名。
明治座出演履歴
昭和56年4月1日~26日『市川猿之助奮闘公演』
「千成瓢猿顔見勢 裏表太閤記」に三法師丸で出演。
(※本名: 喜熨斗 孝彦にて出演)
昭和59年4月25日~29日『市川猿之助舞踊公演』
「猿翁十種の内 高野物狂」花若丸実は平松春満で出演。
(前名 市川亀治郎にて出演)
平成15年7月29日・30日 明治座再開場10周年『伝統芸能の若き獅子たちⅡ』
舞踊「獅子」(29日のみ)に出演。
(前名 市川亀治郎にて出演)
平成23年5月3日~27日『明治座五月花形歌舞伎』
「義経千本桜 川連法眼館」佐野忠信実は源九郎狐で出演。
(前名 市川亀治郎にて出演)
四代目・市川猿之助さんにインタビュー取材を行いました。
お話を伺い「今を生きる」ということを強く感じました。
極端に言えば、何分か後には違うことに興味を持っているかもしれないし、
違うことを感じているかもしれない。
おそらく、そのどれもが四代目・市川猿之助の考えなのです。
「過去の実績にとらわれることなく、
今、目の前にある興味に向かってエネルギー全開で挑む姿」
それが四代目・猿之助スピリットの根底にあります。
そして、会話の端々からは、
「単にその言葉を受け取るのではなく、心を読み取ることが大切」という
インタビューの本質を教えていただいたような気がします。
それでは、四代目・市川猿之助さんの「今」を切り取ったインタビューをご覧ください。
(インタビュアー:住川絵理)
――― 一門の皆さんやファンの皆様に、襲名後は何と呼ばれていますか?
僕は四代目と呼ばれています。
――― となると猿翁さんは、三代目と。
そうです。三代目ですね。
――― 今年の6月・7月、新橋演舞場で行われた襲名披露公演は、古典・舞踊・スーパー歌舞伎など、盛りだくさんな内容になりました。同じ月のうちに、スーパー歌舞伎と古典や舞踊を上演するというのは今回が初めての試みでした。まさに最初から前例がないことに挑戦なさいましたが、かなり演じる方も大変だったのでは。
僕よりも周りのスタッフさんたちが大変だったと思いますよ。
でもね。結果が、良ければ、全て良しでしょう。
――― スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』の絵看板も新橋演舞所の入り口に飾られましたね。
そう、初めて上がりましたね。それはもう本当に素晴らしいことだと思います。
――― 数年前にお墓参りに行かれた時、偶然従兄弟の香川照之さん(今年、市川中車を襲名)に初めて出会われて、そこから猿之助さんにとって目まぐるしい変化が起きたのではないかと思うのですが、その辺りはどのようにお感じですか?
今、振り返って見ると、大きな何かに動かされていったという表現でしょうけど、その当時は動いているという感覚でした。
中車さんには、その時に出会ってなかったとしても、そのうちテレビの収録などで会う機会はあったかもしれませんね。
――― 四代目・市川猿之助襲名を発表し、ファンの皆様の反応はいかがでしたか?
実は、あまり周りの反応は気にしないんです。
でも、舞台を観に来て応援して下さるかたがいるということに関しては、感謝の気持ちでいっぱいです。
――― 今年の春には都内2カ所(渋谷・浅草)で襲名のお練りが行われました。これも非常に珍しいことなのではないかと思います。私も両方とも取材させていただきましたが、沿道には大勢の人が詰めかけました。劇場空間で感じるのとはまた違った反応が返ってきたのではないかと思うのですが、どのようなことを感じましたか?
あれだけ集まってくれたことに驚きましたし、ただただ感謝ということに尽きますね。
もう、本当にありがたいなと思いました。
――― 今年は『市川亀治郎大博覧会』開催や『亀治郎の肖像』などの写真集も発行。8月には『大感謝祭! 亀治郎の会 さよなら公演』も行われました。市川亀治郎というお名前には強い思いれがあるんじゃないかなと思いますが、今の心境は。
よく頑張ったし、良い名前だと思うけど、市川亀治郎という名前は、もう僕のものじゃないなと思っています。
今はもう市川亀治郎という名前にこだわりはなくなりました。それはきっと、やりきったからでしょうね。
――― では、次のステップに入ったと。
うん、そうですね。
――― 今後は、猿之助さんとしてどのような活動をしていきたいと?
良い意味で、節操なくやりたいですね。その時、その時に興味を持ったものに、色々と取り組んでいきたいです。
――― それは、歌舞伎に限らず?
限らないですね。興味がなくなったら歌舞伎だってやらなくなるかもしれないです(笑)。一生やると決めている訳ではないですから。
――― では、今興味があるのはどんな事ですか?
今は、正直休みたいかな(笑)。
――― そうですよね(笑)
今休みがあったら、全力をもって満喫すると思いますよ。
――― では、休みが取れたら、どんなことをしたいですか。
とにかく本をたくさん読みたいです。
最近は忙しくてアウトプットばかりになっているから、インプットしたいです。
ジャンルも拘らずにとにかく色々なものを読んで吸収したいです。
――― 雑学や歴史ものも?
うん。ノンフィクションのものも読みたいし。とにかく色々と。
――― 色々なジャンルの本を子供の頃からたくさん読んでいらっしゃるから、自然と雑学も増えますか?
そうですね。ありがたいことに、本を読む習慣は元々ありますね。
――― 本もたくさんお持ちになって、自宅の部屋に書庫もあるのですよね。
そうそう。なっています。書庫になっています。
――― 本の量もどんどん増えていきませんか?
いや、最近はあまりためないようにしています。
死ぬときは持っていけないしね(笑)。
――― 今までスーパー歌舞伎などでは作品ごとに色々なテーマがありました。例えば『ヤマトタケル』では“天掛ける心”。『オグリ』では“ロマンの病”、『新・三国志』では“夢見る力”などがございました。今後、猿之助さんがお芝居を作る機会も出てくるのではないかと思いますが、描きたいテーマはございますか。
これから作る芝居の形態を考えるのであれば、もうそういうテーマを全面に打ち出す芝居は古いのかなと思います。
やっぱり、最初から決めつけてしまうような形より、観客一人一人がそれぞれのテーマを見つけ出す形がいいのではないかと思うんです。
――― それは歌舞伎に限らず、お芝居をする上で常に考えていらっしゃることですか?
そうですね。
――― 目の前にある興味に向かっていく感覚は大切かもしれないですね。
今、芝居のこと以外で目の前にある興味は?
美術品を見たりするのが楽しいですね。
やっぱり日本の物が好きです。
昔の物とかね。いいものをじっくり見るのがいいんですよね。
――― 京都の番組(BS朝日「知られざる物語 京都1200年の旅」)のナビゲーターもなさっていますよね。
すごくあの番組も面白いですね。普段京都に行ってもなかなか知るチャンスがないようなことを取り上げているので、面白い角度から描いているなぁと思いながら拝見しています。
嬉しいです。ありがとうございます。
このごろ僕自身は、京都に行っていなくて、それこそ休みがもらえれば(笑)。
――― 明治座のお話も伺いたいと思います。昨年の5月に明治座で歌舞伎公演が行われました。あの時にご出演なさったのは、当時のお名前で言うと、市川染五郎さん、市川亀治郎さん、中村勘太郎さん、中村七之助さん。あの時から、襲名でお二人の名前が変わっているんですよね。
そうですね。勘太郎さんも勘九郎を襲名なさいましたからね。
――― その時の公演では、猿之助さんは、『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』より『川連法眼館(かわつらほうげんやかた)』通称でいうと『四の切』にご出演なさいました。自主公演『亀治郎の会』でも演じていらっしゃいましたが、明治座で演じる『四の切』はいかがでしたか?舞台上から客席を観た感じなど、他の劇場とはちょっと違うようなところはございますか。
劇場の大きさが違うと、自然と見え方や感じ方は違います。
実は、宙乗りの景色は、博多座が一番いい。ストロークがものすごく長いのできれいなんですよね。
雰囲気がいいのは京都の南座。破風(はふ:建築装飾)が劇場内部にあるからね。
明治座は、三代目に所縁はあるけれど、僕自身はこれから所縁を作っていきたい劇場と思っています。
今後、どういう歴史を作れるかの、まだ第一歩目ですからね。明治座は宙乗りを含め、設備がとても良いんですよ。
子供の頃から数えると僕が明治座に出演するのは、本公演としては今回で4回目。
小さい頃は、楽屋で走り回っていました。
――― 大人の役者さんたちに遊んでもらっていたのですか?
そうそう。もちろん。
――― その時はどんな遊びを。
お芝居ごっこですよ。僕らがいつもやっているのは。
それこそ明治座の楽屋でも、『四の切』の狐の真似ごとをよくしていました。
――― 今回演じられるのは昼の部では『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』ですね。2006年に浅草公会堂で上演の際、石川耕士さんとご一緒に色々アイデアを出されたという話を伺いましたが、いろいろ工夫点などもあるのでは。
これは、僕の中で一番多く演じている作品のひとつです。
今まで、もう工夫し尽くしているので、今回は特に(演出などを)変えず、一番基本的な形でいこうと思います。
――― 初めてご覧になる方もいらっしゃるかもしれませんが、どのような所を楽しんでいただきたいですか?普段歌舞伎をあまりごらんにならないかたでも、分かりやすい演目のような気がします。
そうですね。とっつきやすい演目ですので、ぜひ多くの方に見て頂きたい。
――― 夜の部は『天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)』。これは22年ぶりに今年の2月に博多座で上演されましたね。私もまだ拝見したことがないので楽しみです。スペクタクルな演出も見られそうですね。
これは通し狂言で、起承転結がはっきりしています。
物語自体は妖術使いだからスペクタクルなところもあるし、早替りもあるし、お楽しみいっぱい。
あ、人生の教訓とかは期待しないでくださいね(笑)。
――― そうなんですか(笑)。そんなことはないでしょう。
演劇って何かを得ようとか、頭から決めつけて見るのは良くないと思うんです。
「なんか楽しいなー」って思いながら見ていて、家に帰って、色々と思い出そうと思っても思い出せないくらいがいいんですよ。
「でもなんか楽しかったなー」という感覚が残れば、それでいいような気がするんです。
――― なるほど、そうですね。
例えば景色を見て感動した時、理由はないことの方が多いですよね。言葉を失ったり、自然と涙が出たり。
そうそうそう!そういう意味です。歌舞伎って、そういうものだと思うんです。
――― 今回、『天竺徳兵衛新噺』では、また宙乗りもありますね。
やっぱり明治座さんの機構がいいから、それを使わない手はないですね!
――― ちょっとネタバレになりますが、つづら(箱)の中から出てくる、「つづら抜け」の宙乗りなのですよね。
中に控えている時は真っ暗闇ですか?
いや、中から見えていますよ。
――― 隙間から?
そうそう。道具も手作りだから隙間があるのでそこから見て、だいたいどのぐらいの高さにいるな、というのは分かっています。
――― それなら高いところで、つづらからバッと出たときも、そんなにすごい恐怖心ではないですか?
そうですね。
でも、怖いとか考えると、できないですよ。
――― 例えば今年上演したスーパー歌舞伎の『ヤマトタケル』などは、初演の形に戻して上演したいという意向だったかと思いますが、今後も三代目がなさっていたものを上演する際に、初演にこだわる部分はございますか?
必ずしも初演にこだわるということではなくて、それが良ければその形で上演したいと思っています。
『ヤマトタケル』に関しては、僕自身が初演に感動しているから、それがいいと思ったのです。
だから初演の形に近付けたほうがいいと思いましたが、全部初演に戻すっていうことではないんです。
自分の感覚を大事にして、信じたことをやるしかないですからね。
――― 三代目がよく世阿弥の「離見の見(りけんのけん)」という言葉をお使いになっていらっしゃいます。自分を色々な角度から客観的に眺める感性が必要だと。四代目の意識の中にもそのことはあるのかなと思いますが、ご自身が俳優として舞台に立ちながらも、客観的に眺める部分も同時にお持ちになっていらっしゃいますか。
それは、誰にでもあると思いますし、それを無くしたら俳優として終わりだと思っています。
観客の立場になったり、時には大道具さんの立場になったり。いろいろな立場で考えたら、新しく見えてくるものがあります。
――― これもよく聞かれる質問かと思いますが、今後演出とか劇作家とか、そういった方向も視野に?
やりたいなとは思うけど、たぶんやらないと思います。
面倒くさがりなんで(笑)。
――― 『亀治郎の会』などは、全部ご自身でプロデュースなさっていましたよね。
そう。でも、10年間やってもう満喫しました(笑)。
――― 例えば『猿之助の会』は?
今は、自主公演をやることよりも、色々な作品、演出家、役と出会うことに楽しみを感じています。
だから、面白いと思えるものは、どんどん挑戦していきたいと思っています。
明治座創業140周年
『明治座 十一月花形歌舞伎』
日程:2012年11月3日(土・祝)~27日(火)
会場:明治座(東京都中央区日本橋浜町2-31-1)
開演時間:昼の部 11時/夜の部 16時30分
ご観劇料(税込み):一等席 12,000円、二等席 8,000円
三等A席 5,000円、三等B席 3,000円
※学割/各席種2割引。詳しくは明治座ホームページをご覧ください
製作:松竹株式会社
主催:株式会社明治座
http://www.meijiza.co.jp/info/2012_11/
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