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『End of the RAINBOW』
彩吹真央さん、鈴木壮麻さん対談
アメリカが生んだ20世紀最高のエンタテイナー、ジュディ・ガーランド。
彼女が魂をすべて捧げた伝説のステージが、数々の名曲と共に今甦る。
ジュディ・ガーランド(1922~69年)
2歳半で初舞台。映画「オズの魔法使」(1939年)の可憐なドロシー役で、スターの座を掴む。
以降、「若草の頃」(1944年)や「イースター・パレード」(1948年)、「スタア誕生」(1954年)などに主演。
歌、踊り、演技の全てに秀でた、実力派ミュージカル・スターとして一世を風靡した。
しかし華やかで快活なイメージとは裏腹に、10代の頃から薬物に頼り、私生活は波乱万丈だった。
後年はコンサートを中心に活躍。酒とクスリに身体を蝕まれながらも、ひとたび舞台に立つと、
持てる力をフルに出し切ったダイナミックな絶唱で観客を圧倒した。1969年に、睡眠薬の過剰摂取が原因で急逝。
47歳の若さだった。欧米では死後の今なお非常に人気が高く、天才エンタテイナーの名声は少しも衰えていない。
この『エンド・オブ・ザ・レインボー』は、ガーランド最晩年の姿を描いた作品で、まず2005年にオーストラリアで初演。
その後2010年にウエストエンドで上演され、英国演劇界の権威あるオリヴィエ賞で、主演女優賞、戯曲賞など
4部門で候補に挙がった。2012年にはブロードウェイに進出。トニー賞の主演女優賞や助演男優賞など、
3部門でノミネートされ高い評価を得た。もちろん劇中では、〈虹の彼方に〉や〈ゲット・ハッピー〉を始め、
ガーランドの十八番がたっぷり歌われる。
文=中島薫(音楽評論家)
1968年のクリスマス・ロンドン。
ジュディはライブの為に、フィアンセのミッキー・ディーンズとピアニストのアンソニーと共に
リッツホテルのスイートルームにチェックインした。しかし、ジュディは「ここは狭い」と冒頭から機嫌が悪い。
すでにこの頃彼女は、アルコールと薬に頼る生活になっていた。
ミッキーとアンソニーはその生活から彼女を脱出させようと試みるのだが・・・
ライブへの執着と恐れを抱くジュディ。彼女を支えるピアニストとフィアンセの愛と葛藤。
数々のジュディ・ガーランドのヒット曲に包まれた「End of the RAINBOW」。
主演・ジュディ・ガーランド役の彩吹真央さんと、
アンソニー役の鈴木壮麻さん(綜馬より改名)の対談が実現しました。
なお、共演は小西遼生さんと伊礼彼方さん。
小西さんと伊礼さんはミッキー・ディーンズ役とインタビュアー役です(公演によってキャストが入れ替わります)。
―――『End of the RAINBOW』に出演が決まった時、どのようなことを感じましたか?
◆彩吹真央
地下鉄のホームで、この作品の上演が正式に決まったという連絡を受けて、
思わず「やったー!!!」と叫びました。
最初にお話をいただいた時にも、ジュディ・ガーランドを演じられる、こんな機会はなかなかないですから、
もちろんやりたいです!やりたいに決まっています!という気持ちでした。
宝塚退団後、『COCO』という作品に出演しましたが、その中で鳳蘭さんがココの役を演じていらっしゃいました。
比べものにはなりませんが、実在の人物を演じるという意味では同じなので光栄に思いました。
しかもジュディ・ガーランドは、伝説のエンタテイナー。
これまでにも彼女の作品は色々と見て、歌の素晴らしさ、
芝居の面白さ、ダンスのうまさを知っていました。
実は私、この『End of the RAINBOW』も、3年前ブロードウェイで観ていたんです。
◆鈴木壮麻
そこが強みだよね。この作品を観ていたというのは。
◆彩吹真央
家にも3年前のプレイビルがあります。ちょうど今頃、8月頃でした。
◆鈴木壮麻
何の企画もないその時から「この役をやるんだ!」と思っていたの?
◆彩吹真央
思っていないですよ(笑)。
◆鈴木壮麻
じゃあ、この作品を上演するかもという話があった時から、お百度参りしたの?
◆彩吹真央
していないですよ(笑)。でも本当にそれ位の気持ちではありました。
上演が決まったという報告と同時にビジュアル撮影をいつやるかという話になったので、
急にどんどん加速していったんです。
◆鈴木壮麻
スタジオでのチラシ撮影の時、いろっぽかったですよね。
ちょっとポーズ作って(真似しながら)「あら、壮麻さん、おはよう」って。
◆彩吹真央
もう既に役になりきっていたんです!(笑)。
―――『End of the RAINBOW』をブロードウェイでご覧になった時はどんな印象を?
◆彩吹真央
とにかく主演の方が出ずっぱりでした。
英語が分からないので、あらすじを読んでから観たのですが、
お酒を欲しがっているんだなとか、葛藤しながら舞台に立って歌っているんだな、
という大枠は分かりましたが、お客さん達が笑っているアメリカンジョークは分かりませんでした。
でも、葛藤しながら歌いきるジュディ役の方のパフォーマンスに圧倒されて、言葉が分からない私も大感動しました。
最初に『End of the RAINBOW』が、あの作品だというのは直結しなかったのですが、
よくよく話を聞いて家にあるプレイビルを引っ張り出したら、タイトルも同じだったので
「やっぱり、あれを上演するんだ」と思ったんです。
「これはやらなきゃだめだ!」と。
―――鈴木壮麻さんは出演が決まってどのようなことを感じましたか。
◆鈴木壮麻
僕は台本を読んだ時、あまりに素敵な言葉と赤裸々なヒリヒリする感じに魅了され、
「これはマストでしょう!」と思いました。だから僕もその時から、
上演が実現されますように、この作品に出られますようにと祈っていました。
だから決まった時にはほっとしました。失う悲しみを体験しなくて良かったなって。
◆彩吹真央
うわぁ、今、あまりに熱く素敵な言葉に心が溶けちゃいました。
◆鈴木壮麻
え、老けちゃった?
◆彩吹真央
いいえ、溶けちゃったです。どうぞ続けて下さい!(笑)
◆鈴木壮麻
ジュディ役を彼女(彩吹)がやるという話は知っていたので、
これは添い遂げられたらいいな、そんな感覚でしたね。
初めてお会いする方だったらまた違う感覚だったと思いますが、
「一緒にこの作品に挑み、くぐっていこうぜ」と。
彼女の方がセリフ量も出番もはるかに多いので、一緒にというのも
おこがましいのですが、感覚的にはそう思いました。
これで戦友みたいになれるのかな、と。
◆彩吹真央
壮麻さんもお稽古前半はスケジュール的にお忙しい時期でしたよね。
◆鈴木壮麻
舞台出演が終わってこの作品にかかりっきりになったのは1週間前からですが、
今となってはずっと前からこの稽古をしていたような気がします。
―――ジュディ・ガーランドのイメージは?
◆鈴木壮麻
僕はもともと「トロリー・ソング」(映画『若草の頃』より)を、
カセットに入れて聞いていました。ノリノリで大好きな曲なんです。
あとはマイケル・ファインスタインもピアノ一本で歌っているのを聞いていて、
ジュディの曲をカバーしている人の曲をよく聞いていたので、
とても身近な存在です。もちろん映画『オズの魔法使』も観てはいましたが、
ドロシーを演じているジュディがまさかこんなことになっているとは
思いもしませんでした。僕ぐらいの知識の方が今回の舞台を観て、
晩年の彼女の様子を目の当たりにしたら
どんなことを感じるんだろう、と思います。
僕自身も、「薬物であんなにハイテンションだったんだ」ということも知りました。
彼女ありきで周りの人が彼女にかかりっきりになるのに、
彼女はそれを蹴散らしてバンっといってしまう。
何物にも変えられない、エネルギー体なんですよね。
◆彩吹真央
ジュディは、マグマのグツグツした感じもありますし、
それがしょっちゅう爆発するんです。沈静したかと思えば、まだ熱い、というような。
―――ジュディがそうなった、エネルギーの源にあるものはどんなことだと思われますか。
◆彩吹真央
理由はたくさんあると思います。2歳に初舞台で、ずっとエンターテインメントの世界から
離れることはありませんでした。16歳で『オズの魔法使』のドロシーに選ばれ、
その頃からどんどん忙しくなってゆきます。子どもの頃から母親から薬物を飲まされ、
それを辞めることが出来ない状況でした。フランシス・ガムという本名がありますが、
ジュディ・ガーランドとして生きざるを得なかったんです。そこから抜け出したいと
何度も思ったでしょうが、それを周りが許さないだけでなく、世界中の人が許さない
だろうと彼女は思っていたはずです。
嫌だと言いながらも、それがジュディの生きる術だったんだと思います。
◆鈴木壮麻
『オズの魔法使』で大ブレイクしていなかったらどうなっていたんでしょうね。
ドロシーに決まったのも事件というか、そういうひょんなことからなので、
違う流れになっていたらどうなっていたんだろうな。
◆彩吹真央
ジュディはずっと母親に薬物を飲まされているので、普通の親子関係ではなかったと思うんです。
多感な時期にちゃんとした教育を受けず、狭い世界のことしか知らなかったし、
上にのぼるためのためのことをたくさんさせられて来た。
だから『オズの魔法使』がヒットしなかったら、ヒットする方法を、親が捜したんじゃないかな。
「虹の彼方に」という曲の「青い鳥がわたっていけるなら、自分も出来るはず」いう歌詞の通り、
上を見続けた人生なのかなと思います。
―――そんなジュディの壮絶な人生を演じてみていかがですか。
◆彩吹真央
一番最初に私が彼女の何を知りたかったかと言うと、死ぬ時に彼女が
死のうと思ったのか、精神的におかしくなっていて量も分からなくなったのか、それは分かりませんが、
彼女の最期はどんな気持ちだったのかなということです。
死んでもいいと思ったのか、助けて欲しいと思ったのか、
その瞬間は彼女にしか分からないことだと思いますが、
稽古場で演じながら「彼女が最後に選択した幸せな瞬間なのかな」と。
今の段階ではそんなことを感じています。
―――ジュディを間近に見守っているアンソニーとしてどのようなことを感じますか。
◆鈴木壮麻
彼女が無事にカムバックを果たして、いい自己実現をしてくれるのを
願っていたのですが、ミッキーが登場し、ミッキーが彼女をどう扱うかという
化学反応を目の当たりにして、「ああこれはもう、僕でしか彼女を生きさせて
あげられる人はいない」という考えにシフトしていくんです。
アンソニーはゲイで、半年前に男性と別れています。だから男女の関係ではない。
でも、ジュディとずっと一緒にいようと思うんですよね。
「無償の愛」という言葉もセリフに出てきますが、彼女を守るということ、
どうやって僕の思いを理解してもらえるのか、というところがアンソニーとして今一番考えていることです。
今、彩吹さんを観ているととても綺麗なのですが、実際のジュディはもっとガサガサです。
◆彩吹真央
ジュディはシワシワですよね。
◆鈴木壮麻
世俗的な部分ではない真理の部分としての大切なことを
彼女と共有して生きていきたいなと思います。
―――お二人は、これまでに『シラノ』や『サンセット大通り』でも共演しているので、
はじめましての状況から始まるのとはちょっと違うというお話が先ほども出ましたが、
今回改めて共演し、お互いの魅力をどのように感じていらっしゃいますか。
◆鈴木壮麻
難しい質問が来たね。
◆彩吹真央
全然難しくないですよ。私は、愛していますから!(キッパリ)
この作品は主に3人が物語を紡いでいく中で、
ひっちゃかめっちゃかのジュディ・ガーランドがいて、若いフィアンセがいて、
それを見ているアンソニーという男性がいる。
アンソニーはゲイという話が出ましたが、ジュディもそういう立場なので、そのことは関係ないんです。
若いフィアンセと一緒のジュディを見て、話を進めて行くのはアンソニーだなと。
アンソニー役に鈴木壮麻さんをというお名前を聞いた時に、
私がジュディを演じるのであれば絶対に壮麻さんにやっていただきたい!と思いました。
私がジュディを演じるというのはとても大変になることは想像出来たので、
作品の中の立場としてもそうですし、カンパニーの中に甘えさせて下さる
壮麻さんがいてくださるのは本当にありがたいなと毎日感じています。
特に昨日は本当にそれを実感した一日でした。
◆鈴木壮麻
僕なんて何もしていないのに(笑)。
◆彩吹真央
いえいえ、この飴も下さいました(笑)。
◆鈴木壮麻
今まで彩吹さんとはミュージカルでしかご一緒していませんでしたが、
今回はストレートプレイです。僕は去年、客席60人という小劇場を経験し、
七転八倒しました。彩吹さんは今回それを体験するんだな、しかも主役で歌まであって!
と心の中で思っていますが、きっとこれはすごくいい経験になると思います。
◆彩吹真央
そう思います。
◆鈴木壮麻
彩吹さんがすごく苦しみながら役作りをしているのが分かるのですが、
今は彫刻のように掘って、そぎ落としている最中です。
◆彩吹真央
それは嬉しいな。私も同じようなことを考えていました。
◆鈴木壮麻
自分もそこはいつも気を付けなきゃと思っているのですが、
何作か一緒にやってきているからこそ、そういう姿を見るのがすごく嬉しいです。
舞台と対峙した時、芸と対峙した時に、すごく清潔で素敵な方なので、
信頼しています。その信頼度が益々深まっています。
きっと今回の舞台を経験して、今後更に進化してゆくだろうな、と。
◆彩吹真央
この作品をさせていただけるかもと知った時に、今までと違う私が
初日、そして大阪の千秋楽にいるような気がするという希望が
ありました。そこはそうなっていなければおかしいとも思います。
マイペースな私ではありますが、そぎ落とし立体的にしながら創っていきたいです。
最終的にジュディ・ガーランドが亡くなる頃は47歳と思えないほど
シワだらけだったのですが、それが彼女の人生だと思うので、
そのシワまで刻みたいです。だから今、毎日シワを掘っています(笑)。
◆鈴木壮麻
シワを掘るなら僕も手伝うのに(笑)。
最初はどうしても客席がこちらにあるというのを意識していましたが、
最近は単にホテルの部屋と捉えていますよね。
◆彩吹真央
私、家よりもここの(稽古場の)空間にいる方が落ち着くようになってきました。
◆鈴木壮麻
えっ!そうなの?(笑)
―――初日が明けても日々、新たな気付きがあるかもしれないですね。
◆彩吹真央
それはそう思います。ミッキー役も2人いますし。
小西君と稽古した後に伊礼君とやると全然違うし、その反対もあるし。
現在、今まで決めた立ち位置などの取り決めをいったん崩して
関係なくやってみたらどうなるかという稽古をしています。
本番もし違うように動いたとしても大丈夫な自信が付いてきました。
◆鈴木壮麻
そうなの?!もしかして、怖い物好き?!
僕なんてドキドキしちゃうよ。
◆彩吹真央
ドキドキはしますが、大丈夫、なんとかなる、そんな気がしてます。
―――お2人で話し合うこともありますか?
◆鈴木壮麻
昨日、彩吹さんと「形の整った空虚な物を創るよりも、どうなるか分からない
ヒリヒリしたものを追求していく方が素敵なんじゃないか」という話になりました。
そこに向かって頑張って行きましょうと。
ミッキーのお2人ともそのような話をしていますが、
次の予測が立たない、どうなっていくんだろうという作品に
持っていきたいというのが僕たちの目指すところですよね。
ジュディ自体が、どうなるか先が分からない人ですもんね。
◆彩吹真央
最初はやっぱり自分の想像を超える言動が台本の中にたくさんあったので、
なんとか想像するという感じでしたが、今やっと腑に落ちることが増えてきました。
◆鈴木壮麻
ジュディは最初のシーンからけっこうひどいよね(笑)。
◆彩吹真央
言ってしまえば生い立ちから考えても私と全く違うのですが、
周りの方々が経験豊富なみなさんなので、いろいろと助けていただいています。
例えば酔っぱらったらこういう感じになるというのをみんなが見せてくれるんです。
◆鈴木壮麻
稽古中にお酒を飲みたいって言い出しているんだよね。
◆彩吹真央
まだやってはいないのですが、本当は実際にお酒を飲んでやってみたいです。
◆鈴木壮麻
彩吹さんのファンはどういう風に思うのかな。
◆彩吹真央
どう考えても、今までにない役柄ですから、たぶん驚かれると思いますが、
見たことがない私をお見せ出来るので、楽しんでいただけるのではと思っています。
ラブシーンでちょっと位はだけても、全然恥ずかしさはないですし、
何が起きてもジュディはもっと大変な経験をしているはずと
思えば何も怖くないんです。
舞台上では、ジュディとして生きているので。
だからもっといじめていただいて大丈夫ですよ。
◆鈴木壮麻
分かりました!(笑)
◆彩吹真央
(笑)
『End of the RAINBOW』
作:ピーター・キルター
演出:上田一豪
翻訳:芦沢みどり
上演台本・訳詞:高橋亜子
音楽監督・ピアノ:岩崎廉
ステージング・振付:TETSUHARU
出演:彩吹真央 小西遼生 伊礼彼方 鈴木壮麻
【東京公演】
日程:2015年8月21日(金)~9月3日(木)
会場:DDD青山クロスシアター
【大阪公演】
日程:2015年9月9日(水)13時30分/18時30分開演
サンケイホールブリーゼ
※ ミッキー・ディーンズ役とインタビュアー役は公演によってキャストが入れ替わります。
企画・製作:シーエイティプロデュース
twitter https://twitter.com/EotRAINBOW_CATP
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