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歌舞伎座「四月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載
第一部『天一坊大岡政談』(前方)左より、
天一坊=市川猿之助、大岡越前守=尾上松緑、
(後方)左より、吉田三五郎=中村松江、近習新蔵=中村鷹之資、近習金吾=市川男寅
提供ⓒ松竹
公演概要(リリースより)
4月2日(土)から「四月大歌舞伎」(4月2日初日〜27日千穐楽 休演日:11、19日)を開催いたします。
松本白鸚、 片岡仁左衛門、中村梅玉、坂東玉三郎はじめ充実の出演者が顔を揃え、
三部制で春にふさわしい華やかな演目が並びます。
歌舞伎座では引き続きお客様に安心して歌舞伎をお楽しみいただけるよう、
換気や消毒を徹底するなど感染予防対策に万全を期して上演しています。
公演レポート
第一部は、通し狂言『天一坊大岡政談(てんいちぼうおおおかせいだん)』です。
享保13年に起きた、自らを八代将軍徳川吉宗のご落胤と称し大勢の浪人を集めた
天一坊が獄門に処された「天一坊事件」が題材の本作。
この大事件は様々な作品の格好の素材となり、黙阿弥も時代背景を鎌倉時代に置き換えた
『吾嬬下五十三驛(あずまくだりごじゅうさんつぎ)』(『天日坊』)、
初代神田伯山が得意とした人気の講談を元に書き下ろした本作と二つの作品を残しています。
特に本作では、登場人物がみせる緊迫した問答の場面や、その流麗なせりふなどが眼目の一つ。
そして名奉行として知られ庶民の人気を集めた大岡越前守の鮮やかな名裁きも必見の作品です。
大岡越前守を尾上松緑、悪の魅力を放つ天一坊を市川猿之助、参謀として天一坊を支える伊賀亮を片岡愛之助が勤め、
同世代の俳優3人が揃っての上演とあって初日前から注目を集める公演がついに幕を開けました。
序幕では市川猿之助演じる法澤(後の天一坊)がご落胤になりすますための証拠を奪うまでが描かれます。
一見人柄の良さそうな若者が悪事を思いつき変化していく様子を猿之助が巧みに魅せると、
客席は一気に作品の世界に引き込まれます。続く場面ではご落胤になりすました法澤が仲間を集めていきます。
そこで出会うのが、片岡愛之助勤める才知に長けた伊賀亮。始めは悪事に加担することを拒む伊賀亮でしたが、
悪事を企みながらも人を惹きつける魅力を持つ法澤の様子に、仲間になることを決めます。
二人が仲間となるまでのやり取りはまさに知的でかっこいい悪役の魅力が詰まったような場面。
「善と悪を行き来するような、ただの悪役ではない」と筋書のインタビューで愛之助が語るように、伊賀亮という人間の魅力が
感じられる場面でもあります。二人が仲間になったことでここから何が起こるのか観客の期待も高まります。
そして第三幕ではついに尾上松緑勤める大岡越前守と天一坊、伊賀亮が対峙します。
公演に先駆け行われた取材会で猿之助が「役者同士のぶつかり合い。
騙し騙され、裁き裁かれ…丁々発止が生まれるのではないか」と作品の見どころを語った通り、同世代の俳優3人が繰り広げる、
黙阿弥らしいせりふの応酬、緊迫感のあるやり取りは見応え、聞き応えたっぷり。怒涛の展開から目が離せません。
松緑は「理知的で真っすぐな人物。久しぶりに、ど真ん中の正義を1カ月貫いて演じたい」と話した通り
すっと筋の通った正義感あふれる大岡越前守を体現し、悪の魅力を放つ二人と対比されることでより一層その姿が際立ちます。
それぞれの思惑が交錯しながらドラマチックに物語が進み、スカッと気持ちの良い大岡越前守の名裁きとなると、
客席は大きな拍手に包まれました。
思い出を手元に残すことができる特別ポスター(尾上松緑、市川猿之助、片岡愛之助の撮り下ろし写真使用) も
劇場ほかにて販売中です。
第一部『天一坊大岡政談』左より、
山内伊賀亮=片岡愛之助、法澤(後の天一坊)=市川猿之助
提供ⓒ松竹
第一部『天一坊大岡政談』左より、
山内伊賀亮=片岡愛之助、大岡越前守=尾上松緑、天一坊=市川猿之助
提供ⓒ松竹
第一部『天一坊大岡政談』左より、
山内伊賀亮=片岡愛之助、大岡越前守=尾上松緑
提供ⓒ松竹
* * *
第二部の幕開けは、侠客の世界を生きる男を描く美しくも切ない物語
『荒川の佐吉(あらかわのさきち)』です。
作者の真山青果が十五世市村羽左衛門の依頼を受けて書き上げた新歌舞伎。
その依頼というのが「最初はみすぼらしく哀れだが、最後はパッと桜の花が咲くような、そんな男の芝居をやりたい」
だったそうで、まさ にこの言葉の通り男のロマンが詰まった人気の演目です。
やくざの世界に憧れて大工から転身した佐吉(松本幸四郎)。
ある日、佐吉の親分が浪人・成川郷右衛門 (中村梅玉)に縄張りを奪われてしまい物語が展開していきます。
佐吉は親分の娘・お新(中村魁春)が生んだ盲目の卯之吉を預かることになり、
友人の大工辰五郎(尾上右近)の助けを借りながら、男手一つで卯之吉を育てることに。
身勝手なふるまいをみせるお新たちと対照的に人間としての誇りを失わず生きる佐吉の姿が心に残ります。
そして7年後――。大親分・相模屋政五郎(松本白鸚)が見守るなか、ついに佐吉は親分の敵・郷右衛門へ仇討ちを挑みます…。
今回二度目、10年ぶりに佐吉を勤める幸四郎は先に行われた取材会で「佐吉は置かれた状況や時の流れに乗って、
それに逆らわずに生きている。誰よりも人らしく生きるその生き方に、男の強さを感じます」とその魅力を語ります。
卯之吉をあやす子煩悩な姿や、親分の敵討ちへと挑んでいく様子、恩ある政五郎たちへ自らの想いを切々と語るセリフなど
場面ごとに佐吉という人間の生き様が様々な面から描かれ、観客も感情移入していきます。
また、「コロナ禍で上演時間が限られる中、以下に凝縮して作品のスケール感や実感をお客様に味わっていただけるか。
“この演り方いいね”と思っていただけるような形を目指す」との思いも話した幸四郎。
制限の中とは感じられない密度の作品に仕上がり、満開の桜のなか、花道を去っていく佐吉の姿に
切なくも爽やかな風を感じるその姿に、客席からは大きな拍手が送られました。
第二部『荒川の佐吉』左より、
荒川の佐吉=松本幸四郎、丸総の女房お新=中村魁春、相模屋政五郎=松本白鸚
提供ⓒ松竹
第二部『荒川の佐吉』左より、
荒川の佐吉=松本幸四郎、大工辰五郎=尾上右近、相模屋政五郎=松本白鸚、お八重=片岡孝太郎
提供ⓒ松竹
続いては、
『義経千本桜』所作事『時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)』です。
歌舞伎三大名作『義経千本桜』より、悲劇の英雄・義経の旅路を描いた所作事です。
幕が開くと、桜が満開の華やかな舞台中央から大和国へ向かう旅の途中の源義経(中村梅玉)と
その家臣・鷲尾三郎(中村鴈治郎) が登場します。
これまでの流転の日々を嘆く義経でしたが、三郎は、義経の合戦での活躍を踊りで物語り励まします。
そんな二人のもとへ現れるのが傀儡師輝吉(中村又五郎)、白拍子三芳野(中村扇雀)たち。
義経たちの旅の慰めにと次々に披露されるバラエティに富んだ踊りが賑やかで楽しいひとときです。
傀儡師たちが 「実は・・・」と姿を現す驚きも楽しめる、この季節にふさわしい華やかな所作事にご期待ください。
第二部『義経千本桜 時鳥花有里』左より、
鷲尾三郎=中村鴈治郎、源義経=中村梅玉
提供ⓒ松竹
第二部『義経千本桜 時鳥花有里』(前方)左より、
白拍子帚木=中村種之助、白拍子雲井=中村虎之介、傀儡師輝吉=中村又五郎、白拍子園原=中村壱太郎、白拍子伏屋=中村米吉、
(後方)白拍子三芳野=中村扇雀 提供ⓒ松竹
* * *
第三部は、
『ぢいさんばあさん』で幕を開けます。
江戸番町に住む美濃部伊織(片岡仁左衛門)と妻るん(坂東玉三郎)は評判のおしどり夫婦。
幸せに暮らしていた矢先、伊織は義弟に代わり一年間単身京都で勤めをすることに。
ところが、伊織は京でふとした弾みから同輩を誤って斬ってしまい、二人は離れ離れになってしまいます。
それから三十七年―、伊織とるんはようやく再会の日を迎え…。
明治、大正期を代表する文豪である森鷗外の短編小説をもとに、宇野信夫が作・演出を手掛けた本作。
原作の持つ雰囲気を演劇的な手法で表現し、趣や季節感が増した情緒溢れる名作として再演を重ねています。
仁左衛門の伊織と玉三郎のるんでの上演は平成22年2月歌舞伎座以来、実に12年ぶり。
これま での共演を振り返り仁左衛門は「玉三郎さんと最初に演じた時(平成6年3月)にはお互いに、
年老いてからの化粧に苦心しました(笑)」、玉三郎も「ことさら演じようとしなくても、お互いにすっと入れる役」 と話します。
本作での共演は今回で5度目となる二人。
前半の若き伊織とるんのこちらが恥ずかしくなるほどの仲睦まじい姿に観客はうっとり、ため息がもれます。
時を経て再会する二人の様子を描く後半では、これまで様々な作品で相手役として共演を重ねてきた二人だからこそ
表現することのできる息の合った芝居が、作中では描かれることの無い37年の月日を感じさせます。
変わらない夫婦愛が心に響く名作に客席からは拍手が鳴り止みませんでした。
第三部『ぢいさんばあさん』左より、
伊織妻るん=坂東玉三郎、美濃部伊織=片岡仁左衛門
提供ⓒ松竹
第三部『ぢいさんばあさん』左より、
戸谷主税=片岡松之助、山田恵助=河原崎権十郎、石井民之進=片岡亀蔵、柳原小兵衛=坂東秀調、美濃部伊織=片岡仁左衛門
提供ⓒ松竹
第三部『ぢいさんばあさん』左より、
伊織妻るん=坂東玉三郎、美濃部伊織=片岡仁左衛門
提供ⓒ松竹
締めくくりは、
『お祭り(おまつり)』です。江戸の二大祭りといわれた「山王祭」を題材にした清元の舞踊です。
幕が開くと日枝神社の祭礼「山王祭」に浮き立つ江戸の赤坂。そこへ一人の芸者(坂東玉三郎)が姿を現します。
祭りに酔った芸者が色っぽく踊りを披露し、さらには字余りの都々逸を歌ったり、狐拳の様子を粋な様子で
踊ってみせたりと賑やかな様子。やがて祭りの若い者も絡み華やかな賑わいが続きます。
様々な形での上演がある『お祭り』ですが、今回は、玉三郎の芸者を中心に、若い者二人がからみ、
三人での踊りをしっかりとみせる形での上演。江戸の活気と風情を粋に踊ってみせる様子、清元の音色も耳に心地よく、
観客はその華やかさに魅了されました。
第三部『お祭り』左より、
若い者=中村歌之助、芸者=坂東玉三郎、若い者=中村福之助
提供ⓒ松竹
第三部『お祭り』左より、
若い者=中村歌之助、芸者=坂東玉三郎、若い者=中村福之助
提供ⓒ松竹
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