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スタジオライフ『DAISY PULLS IT OFF』
開幕レポートが届きました
1983年にイギリスで最も権威あるローレンス・オリビエ賞の内、年間最優秀コメディ賞(Comedy of the Year)を受賞した作品を、スタジオライフがフレッシュでエネルギュシュなShinyチームとキャリアで魅せるMysticチームのダブルキャストで上演!男優だけで奏でる“究極のガーリッシュストーリー” 『DAISY PULLS IT OFF』!!
「グレンジウッドへようこそ!」女子生徒に扮した男優たちにチケットをもぎってもらい、劇場に一歩足を踏み入れると、そこは
女学院。スタジオライフ公演『DAISY PULLS IT OFF』がシアターサンモールにていよいよ開幕した。イギリスでの初演は1983
年。デニス・ディーガン作、『オペラ座の怪人』で有名なアンドリュー・ロイド=ウェバーのプロデュースによる公演は評判を呼
び、英国ローレンス・オリビエ賞の年間最優秀コメディー賞を受賞した名作で、イギリスのみならず世界で上演が繰り返されてい
る。海外の優秀な戯曲上演に力を注ぐスタジオライフが2003年に初演し、2007年に続いて今回が3度目の上演である。
この作品は1920年代イギリスの名門女学院が舞台で、文化祭の演目として女子生徒が『DAISY~』という劇を演じるという劇中
劇スタイルを取っている。観客は文化祭を見に来た父兄という設定だ。最初の見どころは、オープニングシーン。華やかなファン
ファーレと共に女子生徒たちがなだれを打って客席に登場する。男優劇団のスタジオライフで、女子生徒たちはもちろん全員男優
が演じる。客席の隅々まで声をかけ、笑顔を振りまく女子生徒たちのテンションに客席の空気も一気に高まる。観客を巻き込み、
劇場全体を「グレンジウッド女学院」に変貌させる手腕が実に鮮やかだ。
物語は、グレンジウッド女学院に初めての奨学生として転校してきたデイジーが主人公。親友のトリクシーや憧れの生徒会長クレ
ア達に囲まれて順調にスタートしたかに見えた学園生活だが、デイジーをよく思わない同級生たちの意地悪を受ける。デイジーは
自分の誇りを守るため、学院に眠る秘宝探しに乗り出す……。劇中劇という設定、さらに男優が女子生徒を演じるということで、
観客は現実世界から解き放たれ、空想の翼を羽ばたかすことができる。あるいは、自分の学生時代に思いを馳せる人もいるだろ
う。キャストたちも実際の自分とは異なる「女子生徒」を演じて、実に伸びやかな姿を見せた。
文化祭の劇という設定だから、裏方でなく女子生徒として舞台転換している姿を見せるのも見どころの一つ。息の合ったスピーデ
ィな転換で、机が並ぶ教室から古めかしい回廊まで瞬時に出現させるのは劇団ならではだろう。荒天吹きすさぶ浜辺も出演者総出
で表現。観客の想像力をかきたてて、映像では絶対できない、演劇ならではのスペクタクルな空間を作り上げた。また、ホッケー
の試合の場面はまるで実際に試合を見ているかのような臨場感があった。そして、女子生徒のパワーを存分に発揮させながら、演
出の倉田淳は作品の核となる部分をしっかり浮かび上がらせる。名門女学院では異分子であるデイジーの存在は様々な波紋を呼ぶ
が、結び付き、あるいは反発しながらも女子生徒たちは深く関わり合っていく。女子生徒一人一人を生き生きと描くことで、「人
は一人では生きていけない」というテーマが見えてきた。そして、終幕の校長先生の挨拶に「女性たちよ、誇り高く生きよ」とい
うすべての女性へのメッセージがこめられた。
今回はダブルキャストでの上演となる。実年齢が女子生徒に近いメンバーが集まる若手チームのShiny。そして、劇団の中でもキ
ャリアを積んだメンバーでキャスティングしたMysticという2チームは、まったく色合いが違う。同じ作品、同じ台詞であっても見
え方がまったく異なるのはダブルキャストの妙だ。等身大で演じるShinyチームはほとばしる情熱が身上。若さゆえの勢いが舞台に
はじける。初主役となる宇佐見輝が健気なデイジーをまっすぐに演じて、一段の成長を感じさせる。『トーマの心臓』のエーリク
など主役経験も多い久保優二は意地悪なお嬢様のシビル役を思い切りよく演じ、松村泰一郎のモニカとよいコンビぶりを見せた。
今回は6人の客演を迎えてスタジオライフに新風を呼んでいるが、中でもトリクシー役の月岡弘一が表情豊かに小気味よい演技を
見せて目を引いた。劇団でも豊かなキャリアを誇るMysticチームは、作品が持つテーマ性を深く落とし込む演技力が見もの。スタ
ジオライフ劇団代表を務めるベテランの藤原啓児が女子生徒のモニカを演じるのだが、初めはその姿に驚いても、やがては不思議
と女子生徒姿に違和感を覚えなくなる。「演劇は何でもあり」という言葉がこれほどしっくりくるキャスティングもないだろう。
デイジー役の笠原浩夫は圧倒的なパワーで役柄に肉薄。トリクシー役の山本芳樹は細かい演技にも工夫を凝らして、役柄を立体的
に造形する。岩﨑大のシビルは2007年公演でも演じた当たり役で、高慢なお嬢様ぶりを発揮して客席を笑いの渦に巻き込んだ。
演劇の楽しさを存分に感じさせてくれる快作『DAISY PULLS IT OFF』。2016年の締めくくりとして、新たな年を迎えるエネル
ギーをもらえるだろう。(文/大原 薫)
◆Shinyチーム
◆Mysticチーム
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