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大阪松竹座『笑う門には福来たる〜女興行師 吉本せい〜』観劇レポート
笑いは生きる力!
笑いの王国〝吉本〟の創始者・吉本せいの
波瀾万丈の人生を藤山直美が魅せます!
数々の舞台や映画になったジャパニーズドリーム!
桂春団治、エンタツ・アチャコ、笠置シヅ子…
一時代を築いた芸人たちの生き様や華々しい演芸史の変遷も。
興行界で成功を収めた実在の女性の強さや哀しさを、笑いと涙で描く、
藤山直美の真骨頂! 人情味あふれる女の一代記をお楽しみください!
※以下、ネタバレを含みますので、観劇前の方はご注意ください。
※無断転載禁止。
現在、大阪松竹座で公演中の『笑う門には福来たる〜女興行師 吉本せい〜』は、
矢野誠一の作品『女興行師 吉本せい』をもとに、小幡欣治が劇化し、佐々木渚が脚本を手がけ、
浅香哲哉が演出を担当。2014年に福岡・博多座、東京・新橋演舞場で初演された作品です。
吉本興業の創始者である吉本せいさんの波瀾万丈な人生を描いた作品で、
笑いあり、涙ありの人情噺でつづる舞台。
第一幕は、大阪・船場で三代続く荒物問屋に嫁いだ吉本せい(藤山直美)と、
商いをよそに芸人と寄席に夢中の夫・吉本泰三(田村亮)。
商いを放置してしまう主人を見かねたせいは、泰三に「一番好きな事で商いしはったらどうですか…」と提案。
そこから、天満天神裏に“文芸館”という寄席小屋を手に入れて興行師となった二人には、
客寄せの難しさという壁にぶつかりながらも、せいの人柄や芸人や仲間に助けられ、
少しずつ頭角を現していきます。泰三から興行のいろはを教えられたせいは、
常に「お客様が求めているものは何か」を考えていきます。
第二幕では、一流の寄席小屋“金竜亭”を譲り受け、“南地花月”と改称して新たな出発をします。
そんな中、夫の急逝と愛人問題の発覚など、せいにとって精神的に辛い時期に。
しかし、前々から直談判していた噺家・桂春団治(林与一)の出演が叶い、
連日大入りとなり栄えていきました。その後も、せいの心の支えとなっていた人の
旅立ちなど苦労をしますが、溺愛していた息子の吉本頴右(西川忠志)と
実弟の林正之助(喜多村緑郎)とともに、吉本をさらに拡大していきます。
第三幕では、全国に47軒の小屋を構えるようになり、専属芸人も100人を越え、
昭和13年に社名を吉本興業株式会社と改めて、せいが社長に就任します。
その後、戦争のため町は空襲に見舞われ一面焼け野原に。
ここからまた立ち上がる気力を失いかけるせいでしたが、戦争から帰ってきた吉本の芸人たちに励まされ、
もう一度立て直すことを決意。この頃から、興行の世界も海外映画や音楽が流行りはじめます。
これまで吉本を支えてきてくれた人たちの待遇と時代の流れ、想いだけでは成り立たない興行師としての現実…。
今の吉本興業が、どのように生まれてきたのか。この作品を見た上で現在の舞台やテレビなどで
活躍している芸人さんを見ると、これまでとの見方が変わってくる作品です。
東日本大震災の後にも「芝居をやっていていいのか?」「エンターテインメントを発信している場合なのか?」
という意見があったように、戦後、作り上げてきた小屋が潰れた光景を見て、せいは同じことを考えていたに
違いありません。「小屋はなくてもミカン箱の上に立てばいい」と戦争から帰ってきた吉本の芸人達がせいを説得したように、
人の心を動かすのは人の心であり、前向きに生きていくためにも“笑い”が必要で、悲しくつらい時だからこそ
“笑う門には福来たる”という思いで、自分自身を、そして世の中を励ましてきたせいさんの生き方と、
病気から復活して舞台で活躍している藤山直美さんの生き方とが重なって見えます。
この作品は、吉本興業のせいさんの生涯を描いてはいますが、その根底に流れているのは人間の底力。
人生、山あり谷あり、平穏な人生などどこにもない。大なり小なり問題が起こる中で、
その時でもどう生きるのかが「人生」と言えます。涙を笑いに変え人生を生き抜いた一人の女性の姿は、
今の時代でも人の心を揺さぶります。
これは「吉本せい」でもあり、「藤山直美」でもあり、そして「あなた」、「私」のテーマでもある舞台でした。
情報は書き込んだ時点のものですので、実際の内容と異なる場合があります。
あらかじめご了承下さい。