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水戸芸術館プロデュース公演
音楽劇『夜のピクニック』に出演する剣幸さんインタビュー
恩田陸さんの同名小説を原作にした音楽劇『夜のピクニック』が、
10月30日から11月1日に水戸市民会館グロービスホールで上演されます。
物語の舞台は、全校生徒が一昼夜をかけて70キロを歩く、高校生活の一大イベント「歩行祭」。
長い道のりを歩きながら交わされる何気ない会話の中で、高校生たちが抱える思いや人間関係、
家庭の事情などが少しずつ浮かび上がっていきます。
子どもから大人へと向かう時期ならではの心の揺らぎを、歌と音楽を織り交ぜながら描く青春群像劇です。
2016年の初演、2020年の再演を経て、初演から10年目を迎える今回は再々演となります。
今回は会場をこれまでの水戸芸術館ACM劇場から水戸市民会館グロービスホールへ移し、
より大きなスケールで作品世界を描き出します。
初演より主人公のひとり・甲田貴子の母である聡子を演じてきた剣幸さんに、
10年という時を経て再び作品に向き合う今の思いや、聡子という人物像、音楽劇ならではの魅力、
そして作品に描かれる「青春」についてお話を伺いました。
―――2016年の初演から10年、コロナ禍を経て、3度目となる『夜のピクニック』です。
再々演への出演が決まったときは、どのようなお気持ちでしたか。
今までたくさんの作品に出演させていただきましたが、この作品は「どんな作品ですか?」と聞かれると、
説明するのが難しいんです。
「高校生が一日かけて70キロ歩く話です」と言うと、「それってどんな話なの!?」と返されて(笑)。
大きな事件が起こるわけでもなく、ごく日常的な会話が続いていく。
でも、観終わったあとに爽やかな感動が残るんですよね。
こんなふうに人を温かく感動させられる作品があるんだと、初演のときに私自身も驚きました。
そんな作品に3度出演させていただけるのは本当にうれしいですし、光栄に思います。
私は『夜のピクニック』を「水戸の宝」だと思っていて、これから先もキャストを変えながら
長く演じ継がれていく作品になるのではないかと感じています。
―――高校生たちが70キロを歩く。その出来事を一つの物語として描いていることも、この作品の面白さですね。
そもそも恩田陸さんが、これを小説として書かれたこと自体がチャレンジだったと思うんです。
高校生って、子どもと大人の狭間にいる存在ですよね。
特に高校3年生くらいになると、自分はまだ子どもなのか、これから大人になるのか、自分自身でもよく分からない。
そんな揺らぎの中にいる子どもたちが一緒に、十何時間もかけて70キロを歩いていく。
その間に、劇的な大事件ではなくても、一人ひとりが抱えている家庭の事情や人間関係など、
いろいろなものが少しずつ浮かび上がってくる。そして最後には、一緒に歩き切ったという達成感が残る。
そこが面白いところなのだと思います。実際に70キロを歩いた経験がなくても、仲間と一緒に何かをやり遂げた記憶は、
きっと多くの方にもあると思うんです。
観ているうちに、それぞれが自分の記憶の中にある思い出を重ね合わせらせる作品なのではないでしょうか。
―――剣さんが演じる聡子は、貴子の母親です。あらためて、聡子という女性をどのように捉えていますか。
難しい役ですね。聡子には聡子の人生があって、一生懸命に娘を育てて生きてきた。
その姿を、観てくださる方にきちんと理解していただかなければいけないと思っています。
人にはそれぞれの人生があって、正しい・間違っているということだけでは割り切れないものがありますよね。
作品の中に「境界線」という言葉が出てきますが、高校生たちだけではなく、親だって同じだと思うんです。
年齢を重ねているだけで、親にも高校生だった時代があり、大人になってからも人生の選択に悩みながら生きている。
「こちらが正しいのか、あちらなのか」と境界線の上で迷うこともある。
そんな親の人生まで描かれているところが、とても上手く書かれているなと思います。
―――高校生たちの揺れる気持ちと同時に、大人の事情によって揺さぶられる子どもの心や、
子どもを思う親の気持ちも繊細に描かれています。母親役を演じるとき、どのように役へ入っていくのでしょうか。
私自身には子どもはいないので、母親を演じるときは自分の親のことを考えるようにしています。
親と子の関係って、年齢を重ねていくと少しずつ変わっていきますよね。
子どものほうが親の面倒を見るようになったりする。
そんなときに、「私が小さい頃、親はこういう気持ちで育ててくれていたのかな」と考えることがあるんです。
自分が親を思う気持ちから、「親は私をどう思っていたのだろう」と逆に探ってみる。
そうすることで、家族や親子の感覚には近づいていけるような気がしています。
―――初演から10年が経ちました。今回改めて聡子を演じるにあたって、役への向き合い方に変化はありますか。
ありますね。今回は演出の深作健太さんともお話をしながら、聡子が10年という時間をどのように過ごしてきたのか、
その背景にあるものを、これまでよりもう少し具体的に考えてみようと思っています。
初演や再演とは少し違った感覚を自分の中に抱きながら、聡子という人物の人生や娘に対する思いを、
さらに深く演じられたらと思っています。ただ、それを何か分かりやすく表現するということではないんです。
観てくださる方が舞台をご覧になって、それぞれの受け止め方で何かを感じ取ってくださったらいいなと思っています。
―――原作小説の世界が、舞台では歌や音楽のある「音楽劇」として描かれます。
音楽が加わることで生まれる魅力を、どのように感じていますか。
高校生たちがさまざまな経験を乗り越えて巣立っていく姿や、達成した時の感覚、
そのパワーを感じられるところだと思います。
この作品には台詞だけでなく、さまざまな仕掛けがあって、
それによって一人ひとりの家庭の事情なども浮かび上がってきます。
少しファンタジーな要素もありながらリアリティもある。
その世界観の中で歌詞と音楽が融合することで、登場人物の感情がより強く伝わってくるんです。
最後にゴールを迎えたとき、観てくださった方も一緒に70キロを歩ききったかのような
気持ちを味わうことができるんじゃないかなと思います。
―――聡子自身も、娘への思いを歌う場面があります。その歌には、どんな思いを込めていますか。
10年前の聡子として自分自身のことを語る、とても大切な場面です。
彼女にとって娘は、自分がこれから生きていくための大きな存在であり、夢であり、希望でもある。
「この子を一生懸命大切に育てていくんだ」という強い思いが込められています。
今回、実際に10年の年月を経てもう一度聡子を演じることで、自分の中にもこれまでとは
少し違った感覚が生まれてくるかもしれません。まだ稽古を重ねている段階ですので、
これからじっくり深めていきたいと思っていますが、根底にあるのはやはり、
聡子にとって「娘が生きがいだった」という思いですね。
―――作品には、青春の真っただ中だからこその迷いや、言葉にできない感情がたくさん描かれています。
大人になった今だからこそ感じる「青春」とは、どんなものでしょうか。
もう、すべてがそうなんじゃないかな(笑)。
劇中の歌にもありますが、「境界線」の上に立っているんですよね。
子どもなのか大人なのか、真実なのかファンタジーなのか。
何も決まりきっていなくて、確証を持てないまま、「自分はこれからどうなるんだろう」と考えている。
でも、大人の視点から見ると、子どもたちの未来はものすごく明るいじゃないですか。
たとえそのとき決めたことが上手くいかなかったとしても、また次を選ぶことができる。
選択肢が山のようにあるからこそ迷ってしまうのだと思います。
「あのとき、こうしておけばよかった」という後悔はきっと誰しもがあるでしょうけれど、
それも含めて青春なんだと思います。
そして、70キロを十何時間もかけて仲間とともに歩き切った経験は、
その後の人生を支える一つの核になるんじゃないかな。
「あのとき最後までできたんだから、今回も頑張れる」と思えるような、自分の中の勇気になるのではないでしょうか。
水戸芸術館プロデュース公演
音楽劇『夜のピクニック』
2026年
10月30日(金)13:00(貸切)/18:30
10月31日(土)13:00/18:00
11月1日(日)13:00
(開場は開演の45分前)
水戸市民会館グロービスホール(大ホール)
料金【全席指定・税込】
一般 6,000円 U-25 3,000円(夜公演限定) U-18 1,000円
水戸芸術館(9:30~18:00/月曜休館)
電話:029-225-3555
ウェブ予約:https://www.arttowermito.or.jp/ticket/
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