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19世紀を代表する画家の人生を山本芳樹が演じ、歌う『Yoshiki Yamamoto Solo Musical ロートレック』開幕!
劇団スタジオライフの看板俳優として、また翻訳劇、ミュージカル、ライブパフォーマンスなどで
幅広く活躍する山本芳樹が、19世紀フランスを代表する画家ロートレックの劇的な生涯を1人語りのミュージカルで描く
『Yoshiki Yamamoto Solo Musical ロートレック』が、26日東京中野のウエストエンドスタジオで開幕した(30日まで)。
この作品はベテランミュージカル俳優の沢木順が自ら企画制作を手がけ、2009年に初演し、
2011年にはエジンバラ国際演劇祭で27回の連続公演を行うなど国内外で高い評価を受けてきたソロミュージカル。
元々作品は演じ手を変えて受け継がれてこそ生き続けていくものだ、との信念持っていた沢木が、
ロートレックにこれ以上相応しい俳優はいない!と確信して山本に作品のバトンを託し、
志を受け取った山本が2017年に山本版として初演。
更に2020年、作品をライフワークにしたいとの熱い思いのもと美術を一新し、
ロートレックの絵をはじめとしたイメージを喚起する様々な映像を加えたのをはじめ、20人以上の登場人物を一人で演じる、
役柄に相応しい小道具も取り入れるなど、視覚的要素を豊かにバージョンアップ。エレクトーン一台での演奏だった音楽を、
ピアノ、ドラム、ベースのバンド形式にと進化させての再演は大好評を得た。
それを受けての今回の再々演では、演奏にヴァイオリンも加わり、観客席の椅子も舞台となる19世紀末のパリ・モンマルトルに
相応しいテイストのものに改められるなど、ウエストエンドスタジオ全体が、作品の世界観に包まれるなか、
休憩込み約100分で19世紀を代表する画家ロートレックの劇的な人生が描かれていく。
ロートレックと言えば、かの有名な赤い風車のダンスホール『ムーラン・ルージュ』のポスターを
まず思い浮かべる方も多いことだろう。
どこか猥雑で、人間的で、ただ美しいだけではない彼の画風は、娼婦や踊り子などの日々の生活の匂い、
生きている生の姿をあまさず描いて、古典的な伝統芸術とも、同時代の印象派とも異なる独自の世界を
確立したものとして知られている。
この作品はそんなロートレックが、何故そうした絵を描くに至ったか、更には由緒ある伯爵家の嫡男に生まれながら、
何故画家になろうと決意し生涯を駆け抜けたのかという、芸術家の人生を丁寧にすくいとっていく。
舞台はアブサンなどの強い酒に溺れ、アルコール依存の状態に陥り幻覚を見るようになっていたロートレックが、
一時期強制収容されたサナトリウムからはじまる。自分は正常だ!絵を描かせてくれ、わたしの絵をみればそれがわかる!
と強く訴えるロートレックを焦燥のこもった叫びにも似た声で演じていた山本が、スッと立ち上がり、
即座に19世紀の画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの解説をはじめる、この一瞬の鮮やかな変貌で、
たった一人で壮絶な人生を生きた画家とかかわる人々を演じ分ける、
『Yoshiki Yamamoto Solo Musical ロートレック』の世界に引き込まれた。
そこから続くのは、伯爵家の跡取りとして生まれ「プティ・ビジュー=小さな宝石」と呼ばれるほど
両親の愛を一身に受けて育ったロートレックが、高貴な家柄に多く繰り返された近親婚による遺伝的疾患によって、
15歳で足の成長が止まってしまったことから、大きく旋回していく彼の人生だ。
王家に次ぐ家柄を絶やさず、騎士道を守り抜くことが己の使命と信じていた父親は、その責務を果たせない息子に絶望し、
一方母親は息子の苦しみを我が身にと届かぬ祈りを神に捧げ続ける。やがて初恋の相手に愛を告白したロートレック自身も
、鏡を見るようにという手ひどい拒絶の言葉から、自らの醜さを嘆き、世を呪う。
この怒涛の展開のなかで、山本は黒い上着で父を、白いベールで母を、足を曲げた立ち姿でロートレックを、
それぞれに表現しながら、『ロートレック家の帝王学』『母の祈り』『鏡の中の僕』のミュージカルナンバーを次々と届けてくれる。
そのいずれもが非常に豊かな声量を持った歌唱でありつつ、全く異なる声で歌い分けられていることに改めて驚かされる。
やがてロートレックがパリに出て画塾に学ぶようになると、舞台の登場人物は更に増え続けていく。絵の師匠。モデル。
芸術家同士として互いを高め合った親友のビンセント・ヴァン・ゴッホ。3年間を共に暮らしたシュザンヌ。
ムーラン・ルージュの人々。画壇の評論家。娼婦……それら老若男女を山本は、ほんの微かに肩を落とす、重心を外して立つ、
などの身体的表現を巧みに用いながら演じ分けていく。ここには男優のみで全ての役柄を演じる劇団「スタジオライフ」の
看板俳優の一人として山本が培ってきたものはもちろん、ミュージカル、ライブパフォーマンスなど、
俳優・山本芳樹が経験してきた全てが凝縮されていて、扇を開く、閉じるという差異だけで男女の会話が
全く不自然でなく続く様には、見惚れるばかりだった。
特に歌唱力の顕著な充実が、玉麻尚一の音楽の美しさをより鮮明にしていて、今回から加わったヴァイオリンの音色も実に効果的。
沢木が企画立案し、さらだたまこが脚本と詞を書いたSolo Musicalとしての作品の豊かさがより深まったのが嬉しい。
何よりも良いのは、この作品で描かれるロートレックの、どんな境遇に置かれても立ち上がり、未来を目指す姿勢が、
山本から発せられる強いエネルギーと、同時にどこかで必ず内包している清らかなものとが相まって、
明日への希望を素直に信じさせてくれることだ。初恋の相手に手ひどい言葉を投げつけられ、自分の負っている宿命に絶望しても、
彼女に書き続けた手紙に添えた絵は必ず喜んでもらえていたという想いに立ち戻り、画家になることを目指すロートレック。
この不屈の姿勢が彼の人生を熱く濃くしていく。すべての運命を受け入れ、尚明日への希望を捨てない。
困難多いいまの時代に、これほど光に満ちたメッセージはないだろう。山本がこの作品をライフワークにと掲げてくれていることが、
その希望を増幅させてくれる。
将来的には作品を全国で、そして海を越えて作品の舞台であるパリで上演したいという夢を掲げている山本芳樹。
その大きな目標に、回を重ね進化を続ける舞台『Yoshiki Yamamoto Solo Musical ロートレック』はきっと届くに違いない。
そんな進化の過程を是非多くの人に体感して欲しい。
【取材・文/橘涼香 撮影/宮坂浩見】
Yoshiki Yamamoto Solo Musical『ロートレック』
日程:2022年10月26日(水)〜30日(日)
会場:東京・ウエストエンドスタジオ
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