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歌舞伎座 四月大歌舞伎 市川猿之助の『黒塚』観劇レポート 2019年04月

(2019年04月11日記載)

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歌舞伎座 四月大歌舞伎
市川猿之助の『黒塚』観劇レポート

公演について

 歌舞伎座では『四月大歌舞伎』が開幕。昼の部は新作の『平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)』、
『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』、坂田藤十郎米寿記念の『寿栄藤末廣(さかえことほぐふじのすえひろ )』、
『御存 鈴ヶ森 (ごぞんじすずがもり)』。夜の部は、『実盛物語(さねもりものがたり)』、
『黒塚(くろづか)』、『二人夕霧(ににんゆうぎり)』が上演されています。
このうち、猿翁十種の内『黒塚』のレポートを掲載します。

※以下、ネタバレを含みますので、観劇前の方はご注意ください。
※無断転載禁止。

市川猿之助の『黒塚』観劇レポート



 夜の部『黒塚』は、昭和14(1934)年、二世市川猿之助(後の初世猿翁)によって初演。
昭和30(1964)年には三代目猿之助(現・猿翁)が「猿翁十種」のひとつとして選定し、上演を重ねてきました。
そして四代目である現・猿之助にとっては、平成24(2012)年の襲名披露公演でも演じた思い入れのある演目。
今回、久しぶりに『黒塚』を観て、その作品の奥の深さと猿之助の追求心に改めて魅了されました。

 『黒塚』は、謡曲の『黒塚(安達原)』を素材とした木村富子の作品。
三部の構成からなり、第一景は能楽を意識した所作、二景は舞台一面の芒の原での舞踊、
三景は鬼と化した戦いの様子を歌舞伎ならではのダイナミックな表現で演じた作品です。


 一景は、幕が上がるとそこは芒の原(すすきのはら)。奥州安達原に一人の老女岩手(市川猿之助)が住んでいます。
虫の音が聞こえる静かな夜、阿闍梨祐慶(中村錦之助)らの一行が老女に一夜の宿を請うと、
静まり返る舞台上で猿之助が演じる岩手が低い声でゆっくりと語り出します。
かつては都人であった品の良さの中にも老いを重ねてきた姿、しぐさ、佇まい、
すべてに岩手の今までの人生、悩み、迷いがにじみ出ています。

 さて、この作品で気がつくのは、岩手は「鬼」ではなく「老女岩手実は安達原の鬼女」という設定。
これは一見、鬼が老女に化けているようにも思えるが、そう簡単なものではなさそう。
それは、その老女である鬼女の中にも、救いを求める気持ちや迷いがあることからも分かってきます。
この老女の中の鬼女性を通し、人間の心の奥底に潜む弱さが垣間見えます。
それは人間である以上、すべての人に共通する弱さなのかもしれません。
そして「仏の教えによって悟りの道に入れば成仏できる」との阿闍梨の言葉に一筋の希望をみいだします。
しかし、一つの約束、信頼が裏切られたと知り、鬼と化します。
阿闍梨と鬼女の対峙は、まさに鬼女の心の中の葛藤であり、それを見事に表現した場面です。
 人はみんな大なり小なり善・悪を持っており、その場の状況により、それが頭をもたげます。
理性や知性では押さえきれない人間の本性というべきもので、その感情は時には悲しく切ない。
業(ごう)や性(さが)、本性は人間に潜む弱さであり、この葛藤からの救いが「浄化」や「修行」であり、
「祈り」や「悟り」に通じるものがあります。これは時代が移り変わっても、いや、この混沌とした時代だからこそ、
見つめ直すべきメッセージを持った哲学的舞踊劇だと思いました。
 一景の「静」から三景の「動」へと変化する場面転換も見どころですが、その間に無心に踊る老女の二景が入ります。
この大自然の中で、子どものように邪気の無い、いわゆる無邪気な心で踊る姿の猿之助は、まさに天下一品。
憎しみも、恨みも、欲もない無心な心が「悟り」への道に通じるのかもしれないと思いました。
無邪気な二景から一転、三景は邪気の場面。猿之助の声の質から動き、
心情の変化までガラリと変わるドラマチックな舞台は最大の見どころ。

伝統と継承

 お家芸である『黒塚』を演じる猿之助は「一生追求していきたい特別な作品」と話します。
歌舞伎の「伝統」とは「受け継いでいくもの」ではありますが、その舞台も、
時代や演じる役者の感性をより多く取り入れていかなければ生き続けられない時代となってきています。
日本の伝統文化がこれから先の時代にも生き続け、さらには新たなものを生み出していくには、
「不変」と「変革」が最大のテーマになるのかもしれません。

 今回、猿之助の『黒塚』では、照明もさらに工夫されています。
月が照らす芒の原での照明は、少しずつ変化し、場面によって静と動や心情を効果的に表現しています。
時代の技術や感性も取り入れながらのハード面、ソフト面の演出の挑戦は、まさに猿之助の得意分野。

 世の中、3DだのAIだのと目まぐるしく変化してきています。
そのうちAIロボットによる歌舞伎の舞台までできる時代がくるのかもしれない…。
しかし、どんな時代がきても『黒塚』は猿之助で見続けたい。
なぜなら、伝統的お家芸という演目であることや人間の心の奥底に潜む精神的な「不変」と、
時代という流れの中での「変革」への挑戦。その猿之助の取り組みを見続けることが、
次の時代への歌舞伎を育てる「伝統と継承」の時代の証人に継っていくことになると思うから。

(2019年4月9日観劇 取材・文 住川信子/住川禾乙里)

 

※無断転載禁止。

『四月大歌舞伎』の演目と配役

[昼の部]
今井豊茂 作
藤間勘十郎 演出・振付
一、平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)
常盤御前 中村福助
藤原基房 河原崎権十郎
平宗盛 市川男女蔵
平知盛 坂東巳之助
平徳子 中村壱太郎
遮那王 中村児太郎
左源太 市川男寅
平重衡 中村吉之丞
右源太 市村竹松
平時子 市川笑三郎
建春門院滋子 市川笑也
鎌田正近 片岡市蔵
平宗清 坂東彌十郎

二、新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)
座摩社
野崎村
〈座摩社〉
油屋娘お染 中村雀右衛門
丁稚久松 中村錦之助
弥忠太 市村家橘
勘六 中村寿治郎
山伏法印 片岡松之助
山家屋佐四郎 市川門之助
手代小助 中村又五郎
〈野崎村〉
久作娘お光 中村時蔵
油屋娘お染 中村雀右衛門
丁稚久松 中村錦之助
手代小助 中村又五郎
百姓久作 中村歌六
後家お常 片岡秀太郎

坂田藤十郎米寿記念
三、寿栄藤末廣(さかえことほぐふじのすえひろ )
鶴亀
女帝 坂田藤十郎
亀 市川猿之助
従者 中村歌昇
従者 中村壱太郎
従者 中村種之助
従者 中村米吉
従者 中村児太郎
従者 中村亀鶴
鶴 中村鴈治郎

四世鶴屋南北 作
四、御存 鈴ヶ森 (ごぞんじすずがもり)
白井権八 尾上菊五郎
東海の勘蔵 市川左團次
飛脚早助 中村又五郎
北海の熊六 坂東楽善
幡随院長兵衛 中村吉右衛門

[夜の部]
源平布引滝
一、実盛物語(さねもりものがたり)
斎藤実盛 片岡仁左衛門
小万 片岡孝太郎
葵御前 中村米吉
太郎吉 寺嶋眞秀
九郎助 片岡松之助
小よし 市川齊入
瀬尾十郎 中村歌六

木村富子 作
二、猿翁十種の内 黒塚(くろづか)
老女岩手実は安達原の鬼女 市川猿之助
山伏大和坊 中村種之助
山伏讃岐坊 中村鷹之資
強力太郎吾 市川猿弥
阿闍梨祐慶 中村錦之助

近松徳三 作
戸部銀作 補綴
三、二人夕霧(ににんゆうぎり)
傾城買指南所
藤屋伊左衛門 中村鴈治郎
後の夕霧 片岡孝太郎
いや風 坂東彌十郎
てんれつ 中村萬太郎
小れん 片岡千之助
三つ物屋四九兵衛 市川團蔵
おきさ 中村東蔵
先の夕霧 中村魁春

 

 

『四月大歌舞伎』

 

日時:平成31年4月2日(火)~26日(金)

昼の部 午前11時~/夜の部 午後4時30分~

会場:歌舞伎座

料金:1等席18,000円、2等席14,000円

3階A席6,000円、3階B席4,000円、1階桟敷席20,000円

 

公式サイト

 

 

 
 

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