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ミュージカル『In This House2019~最後の夜、最初の朝〜』稽古場レポート 2019年11月

(2019年11月09日記載)

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ミュージカル『In This House2019~最後の夜、最初の朝〜』稽古場レポート

あらすじ

人生の晩年を迎えつつあるヘンリー(岸)&ルイーサ・アーデン(入絵)夫妻は、
ある大晦日の晩、自分たちが長年住んでいた田舎の家に久しぶりに立ち寄る。
その家はしばらく放置されていたせいもあり、あちこち傷み、壁の一部は壊れかけていた。
その晩偶然に自動車の事故で立ち往生していたジョニー(川原)とアニー(綿引)は
アーデン夫妻の家を訪ね、夜が明けるまで一晩お世話になることになるのだが…。
ヘンリーとルイーサは過去の自分たちの愛情について、ジョニーとアニーは未来の自分たちの愛情について、
それぞれどう向き合うべきか、今日“この家で”次のステージへ進むための選択をすることになる。

ミュージカル『In This House2019~最後の夜、最初の朝』稽古場レポート
(2019年11月6日 取材・文・写真:栗原晶子)


11月20日から六行会ホールとひらつかホールで計13公演上演される
ミュージカル『In This House2019~最後の夜、最初の朝〜』の稽古場を取材しました。

初老の男ヘンリー(岸祐二)の穏やかで深い語りからこの物語は始まる。
都内の稽古場で行われた『In This House~最後の夜、最初の朝』の公開稽古は、
この物語のオープニングからスタートした。
静かな、とても静かな始まりだ。
出演者はたった4名、2018年の初演で同役を演じた岸祐二、ルイーサ役の入絵加奈子、
アニー役の綿引さやかが再演でも続投となり、
新たにジョニー役で『ハイキュー!!』『宝塚BOYS』などで注目を集める川原一馬が加わる。

大晦日のファームハウス、ヘンリー(岸祐二)とルイーサ(入絵加奈子)夫婦が歌う「♪時間」は静かで緊張感が漂い、
二人の掛け合いは、どこかミステリアス。彼らが長い時間を費やしてきたこと、
その時間の経過と共にさまざまなことが起こったに違いないことを予感させる。


日本語上演台本・訳詞と演出の板垣恭一さんが、冒頭の二人のセリフの間について小さくアドバイスをした。
セリフのスピードではなく、間だ。それが観客にどのような効果をもたらすか、
この作品をどう始まらせることが出来るのかの説明は、さほどなくてもミュージカル俳優として
25年以上のキャリアを持つ二人には、十分すぎるほど伝わっている。
音楽監督の桑原まこさんからは、曲の歌い終わりの響きや、単語の強弱ポイントなど、きめ細やかなリクエストが入る。
俳優たちは、あらゆる神経を集中して、歌、セリフ、動きを組み立ててミュージカル作品を
作り上げていくのだということに、稽古開始早々、改めて気づかされる。

年齢を重ねたルイーサを演じる入絵さんの抑えた演技は、彼女の素顔とのギャップが大きいようだ。
「元気になりすぎないように」と演出家から指示が出ると、
「そうなの!今日はマスカラを着けてきたから気合が入っちゃって。
普段はノーメイクで稽古しているから」とおどけて見せる姿がキュートだ。

物語は大晦日の夜のファームハウスに、アニー(綿引さやか)とジョニー(川原一馬)の若いカップルが、
車をぶつけて立ち往生し、電話を探して訪ねてくるところから展開していく。
4人は互いのパートナーについて紹介し、彼らは自らを語る。

シリアスなシーンが続く作品と思われがちだが、ユニークな動きや楽しい曲も多い『In This House』。
4人が入れ替わり立ち替わり歌う「♪素敵な時間を」は、ポップな曲だ。ジョニー演じる川原さんが
おどけた様子で家族のことを歌い、アニー演じる綿引さんが伸びやかな声で自らの仕事と運命を表情豊かに歌う。
二人の関係性が少しずつ見えてくると、そこに酒に酔ったヘンリーと彼を案じるルイーサも加わり……。

「♪大舞台」は、ヘンリー(岸祐二)が、プロ野球選手だったことを語る曲。
体格のいい岸さんが大きな身振りをつけながら、夢だった大舞台を歌う。パワーみなぎる動の曲だ。

そこからゆっくりとルイーサ(入絵加奈子)のソロ曲へ。
「♪川へ下りて」は、ルイーサがヘンリーとの出会いと彼への思いからとった行動を告白のように語る静の曲。
二人の動と静は、美術と照明があたる舞台上ではどのように浮かび上がるのか、想像するだけで期待に胸が膨らむ。
ソロ曲の時には、歌う本人はもちろん、その他3人の姿勢や表情にも注目したい。

アニー(綿引さやか)とジョニー(川原一馬)は、結婚前のカップル。
設定だけ聞けばハッピーな二人を予想するが、どうやら簡単には進まないようだ。
続いて行われたのは、年明けとともに露呈していく二人の噛み合わないセリフが続くシーン。
一年間、アニーという役を身近に感じながら過ごしてきたという綿引さんと、
稽古序盤で何枚もの壁と対峙している新加入の川原さん。
二人の関係は、結婚という人生において大きな出来事に直面した時の、
アニーとジョニーの温度差のようなものにもリンクして映る。
「この時ジョニーはどういう感情?」と演出の板垣さんが問う。
川原さんが考える。綿引さんも共に考える。川原さんが答える。それを受けてさらに質問が重ねられていく。
演出家の板垣さんの言葉を耳だけでなく表情からもとらえようとし、台本に書かれたセリフを改めて確認し、
空(くう)を見上げと、二人の視線は何度も何か所にも注がれた。
「人間が言葉を発するときは、無意識に何かの効果を期待して言うものだ」と演出家は言う。
だとするならば、その時ジョニーはどんな効果を期待してそのセリフを言うのか、
アニーは何を期待してそのセリフを重ねていくのか。

アニーとジョニーの稽古が繰り返されている間中、ヘンリーとルイーサは稽古場の隅のベンチで話しをしていた。
その内容は聞こえこそしなかったが、二人の醸す雰囲気が、長年連れ添った夫婦そのものに見えた。

こうした稽古の様子は、まるで折り紙の折り目つけのようだ。
折り目とは、その先の工程できれいに折り上げるために、折り筋をつけること。
つけた後は一度開き、元の工程に戻る。理想の形に仕上げるためには、
時間がかかっても折り筋をしっかりつけるほうがいい。
大人のミュージカルドラマとして、初演時に大きな反響を受けた今作は、こうしてていねいに
いくつもの折り筋をつけては開きを繰り返し、初演からさらに深さを増すのだろう。

最後に出演者4人と演出家から作品にかける意気込みとメッセージが贈られた。
川原 「ストレートプレイの作り方でのミュージカルは初めてなので、新鮮な気持ちで稽古に挑んでいます。
結婚や恋人を思う気持ちに向き合いながら精一杯演じていきます」

綿引 「こんなミュージカルドラマ見たことない!という作品にしたいと意気込んでいます。
再演ですが、新しい『In This House』が皆さんの心に残るように頑張ります」

入絵 「一番愛している人に本当の自分を見せる大切さを感じていただければと思います。
どうぞ、あなたの物語を探しにいらしてください」

 「自分の代表作と言いたいほどの作品です。登場人物の誰かに自分を投影して、
自分を見直すきっかけになるような素敵な作品です。4人の女性によるオーケストラが奏でる
美しい音楽と奥深いドラマが皆さんの心にじんわり浸み込んでいくことでしょう。ぜひ劇場に足をお運びください」

板垣 「ミュージカルを好きな人も好きじゃない人も見に来て欲しい。
こんな形のミュージカルもあるんだ、ミュージカルって敬遠していたけど、案外こういう感じなら観れるかも。
そんな風に思っていただけるちょっと変わったミュージカルです」

その日、その家で4人が過ごす時間と記憶を小説のページをめくるように見届けたい。

なお、本作は聴覚障害者用字幕席対応公演、カルチベート・チケット対象公演(学生無料チケット・枚数限定)となっている。
詳しくは公式サイトにて確認を conSept公式

前列左から入絵加奈子さん(ルイーサ)、演出の板垣恭一さん、音楽監督の桑原まこさん
後列左から綿引さやかさん(アニー)、川原一馬さん(ジョニー)、岸祐二さん(ヘンリー)

 

 

『In This House〜最後の夜、最初の朝〜』

 

会期・会場:

2019年11月20日(水)~11月24日(日)at.六行会ホール

2019年11月27日(水)~11月29日(金)at.ひらつかホール

 

日本語上演台本・訳詞・演出:板垣恭一

音楽監督:桑原まこ

出演:岸祐二、入絵加奈子、綿引さやか、川原一馬

公式サイト

 

 

 
 

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