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ミュージカル『天翔る風に』
観劇報告!
ロシアの文豪・ドストエフスキーの「罪と罰」を基に、野田秀樹さんが設定を帝政ロシアから日本の幕末に、主人公も女性に改変し、『贋作・罪と罰』という作品が生まれました。「これをミュージカルにしたら面白いのではないか」と考えた謝珠栄さんは、セリフの持ち味を活かしつつ、音楽・歌・ダンスを散りばめた作品に仕上げ、ミュージカル『天翔る風に』が誕生。2001年の初演以来たびたび上演され、四演目となります。
▲優れた頭脳と剣の腕を持ち、女ながらに江戸開成所の塾生として学んでいた、三条 英(朝海ひかる)は、混乱を極める幕末の世で変革を求めています。行き詰まりを見せる中、ついに英は自らの手で何とかしなければと、殺人を犯し罪の重さに苛まれます。その傍らに寄り添う親友の才谷(石井一孝)は『ベルサイユのばら』のアンドレのような包容力で英を救い導きます。
▲英の妹の智(彩乃かなみ)は優しさがにじみ出ている女性です。家族想いの智は溜水石右衛門(吉野圭吾)との結婚をするべきかどうか悩みます。姉の英の生き方をかっこいいと思い、自分も何か役にたつことがしたいと願う智。優しさの中に潜む意思の強さ。彼女の出した答えは・・・そして溜水の運命は・・・
▲事件を担当する検事(浜畑賢吉)が英を追求していく様子は、『レ・ミゼラブル』のジャベールに通じるものがあります。徐々に追い詰められる英の鬼気迫る演技がみどころ。丁々発止の心理戦はスリリング!
▲今回、キャストもガラリと入れ替わったため、ロック調の楽曲を入れたり、映像を取り入れたりしながら、早い展開で進んでいきます。野田秀樹さんの骨太の脚本に、視覚的エンタメ要素を取り入れたところは、謝珠栄さんならではの手腕です。
▲宝塚を退団後ミュージカルはもちろん、朗読劇やダンス公演にも出演し表現の幅を広げている朝海さんが、一生消えることがない記憶からの苦悩を、セリフ、歌、ダンス、そして殺陣で、表現していきます。自分の信念に反した行動と、それがばれるかもしれないという恐怖。平静を装いつつも追い込まれていく様子は、狂気さえも感じました。
英を始め登場人物たちの生き様と歴史のうねり。
初めは見えなかった事実や人間関係が徐々に見えてきます。
これほど物に溢れ通信手段が発達した現代でも、当事者よりも第三者の方が詳しいことや、その時目の前で起きていることが全てではないと思えるような出来事が数多く見受けられます。後から考えると、あれはこういうことだったのね、と。それが歴史の一端であり、その積み重ねによって今の世が形成されてきたのでしょう。
経験や自信は時として自分自身が生きる上で邪魔をします。己を見失った時、誰かの存在や言葉で救われることがあります。
改めて「天翔る」とは何か調べてみました。大辞泉によると、「神や人などの霊魂が空を飛び走る」と書いてありました。
様々な思惑が飛び交う世の中で『天翔る風に』耳を傾け、その声が聞こえるかどうかは、自分自身にかかっているのかもしれません。
ミュージカル『天翔る風に』
原作:ドストエフスキー
脚色:野田秀樹(「贋作・罪と罰」より)
演出・振付:謝 珠栄
ミュージカル台本:TS
音楽:玉麻尚一
【東京公演】
2013年6月10日(月)~25日(火)
シアタークリエ
【大阪公演】
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
http://www.tohostage.com/amakakeru/index.html
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